超初心者のためのミキシング講座/コンプレッサー編④【音を前に出す】

どもども。

今回のお題は、音を前に出すことを目的とした場合のコンプレッサーの使い方。
基本的には前回の「レベルの大小差を小さくする」方法の応用になるので、前回の内容が理解出来ていれば何も難しくはないはず。

音を前に出す

ミキシングの勉強をしているとかなりの頻度で目にする「音を前に出す」という表現。
これはすなわち「音をより近くに感じるようにしてやる」ということなわけだが、なぜ圧縮機であるコンプレッサーでそんなことが出来るのか?
まずはその原理を解説してみる。

例えば以下のような配置があったとする。

名称未設定1.001

前回の復習になるが、ダイナミクスレンジを考慮するとボーカルの立ち位置は以下のような範囲で変動することになる。

名称未設定 2.001

このボーカルをより近くに感じるようにしてやるためには、レベルの小さい部分を大きくしてやればいい。

名称未設定 2.002

しかし、レベルフェーダーでレベルの小さい部分を大きくしようとすると、当然レベルの大きい部分も比例して大きくなってしまう。

名称未設定 2.003

これではレベルが大きい部分が前に出過ぎてしまうし、0dBを超えてしまいクリッピングを起こす危険性も出てくる。

「ボーカルがところどころオケに埋もれて聴こえない!けど、これ以上レベルを上げるとレベルが大きい部分が音割れしちまう!」

なんて経験をしたことのある人も多いのではないだろうか?
まさにその状態だ。
なので、より音を前に出したい場合は、レベルの大きい部分の位置はそのままにレベルの小さい部分だけを大きくしてやる必要がある
すなわちこういう状態にしてやりたいわけだ。

名称未設定 2.004

そう。
前回の「レベルの大小差を小さくする」で出てきたあの図と一緒だ。
つまり、コンプレッサーでレベルの大小差を小さくしてやればいいことになる。
しかし、コンプレッサーはレベルの大きいところを圧縮するエフェクト。
ただ圧縮しただけでは以下のような状態になる。

名称未設定 2.005

こいつをより前に出してやるためには、圧縮した後に出力レベルを上げてやればいい。

名称未設定 2.006

つまり、音をより前に出すためにはコンプレッサーでレベルの大きいところを圧縮した後に出力レベルを上げてやればいいということになる。
例えば、ピークが0dBの以下のようなソースがあったとすると、

dsf.001

レベルの大きいところを圧縮して、

dsf.002

出力レベル(Output Gain)を上げてピークを0dBに戻してやる。

dsf.003

こうすることでレベルの小さいところが持ち上がり、結果的に音がより前に出て聴こえるようになるわけだ。

どこを圧縮すればいい?

圧縮してやる場所は、基本的に前回の「レベルの大小差を小さくする」の場合と同じになる。
例えば以下のような波形で言えば、赤マル部分を圧縮してやればいい。

fd.001

しかし、結果的に以下の図のように圧縮したい部分以外も圧縮の対象になる。
この理由については、前回の記事を参考にしてほしい。

fd.002

パラメータの設定

基本的には前回と同じなのだが、音が前に出る感覚を得るために気持ちキツめに圧縮してやる感覚で臨むといいと思う。
ただし、圧縮のしすぎはボーカルや生楽器のダイナミクスや質感を殺すことになるので、楽曲全体のイメージと相談しながら設定を決めていきたい。

レシオ

レシオ推奨値 ・・・ 4:1~12:1

レシオは4:1~12:1程度を推奨する。
ただし、12:1までいくと圧縮感も結構きつめになってくる。←聴こえ方の話。
積極的に圧縮感を得たい場合以外は8:1程度に留めておいたほうが無難かと思う。
ちなみに筆者はドラム全体をぶっ潰すような処理以外は8:1以上は滅多に使わない。

スレッショルド

ゲインリダクション推奨値 ・・・ 大きいところで7dB~10dB程度

スレッショルドはゲインリダクションが大きいところで7dB~10dB程度になるように設定。
一般的な生楽器のソースであれば、このような設定にすると以下の図のようにレベルの小さい部分も圧縮されることになると思うが、全体的な質感を考慮するとその方が〇。
10dBまで深く圧縮するとそれなりに圧縮感が出てくる。←聴こえ方の話。
圧縮量が少なすぎればレベルの大小差は縮まらないが、大きすぎれば音楽的にいただけなくなってくる。
ゲインリダクションメーターを確認しながら、ダイナミクスを殺しすぎず、音質の変化が許容範囲におさまりつつ、レベルの大小差がきちんと縮められるラインをレシオの値と絡めて追い込んでいくといい。

アタック

アタック遅め(20~40ms程度)

続いてはアタック。
ポイントになるのはやはり一番レベルが大きくなる音のド頭部分(アタック成分)。
前回も解説したが、ここを圧縮する方法は2パターン。

・アタックをド頭部分よりも早く設定してぶっ潰す
・アタックをド頭部分よりも遅く設定して緩やかに潰す

ボーカルや生楽曲にとってド頭部分のアタック成分は音楽的にも非常に大事な部分。
基本的には後者をオススメするが、目的が目的なのできちんと圧縮量も稼げるように遅くしすぎないことも重要になる。
まずはアタックを最速にして徐々に遅めていき、ゲインリダクションとにらめっこしつつ、圧縮量が稼げて且つ、アタック成分が死なない絶妙なラインを探るイメージ。

リリース

お次はリリース。
こちらも前回同様、ピークを捉えた後はさっさと圧縮を解除するように早めの設定。
ただしポンピング現象には注意。
サスティンが長めのソースの場合は特に注意してほしい。
アタックと同様、最初はリリースを最速に設定して徐々に遅くしていき自然に繋がっているように聴こえるポイントを探ってやるのがいいと思う。

ゲイン

ゲインについては圧縮して小さくなった分だけ元に戻してやるといった感じでOK。
逆に、小さくなった分以上にゲインを上げるのは基本的にはNG。
なぜってそれはレベルフェーダーでただレベルを上げているのと同じこと。
音が大きく聴こえて当たり前。
小さくなった分だけを戻した状態で、コンプレッサーを挿す前に比べてより前に出たように聴こえるようになっているかが重要。
コンプレッサーを挿す前のソースのピークが-6dBだったとしたら、圧縮後のソースのピークを-6dBまで持ち上げた時により大きく聴こえるようになっていなければ目的は達成できていないことになる。
要はレベルの小さかった部分がきちんと大きくなっているかだ。
また、この処理はホスト(DAW)側のレベルフェーダーで行うことも可能だが、コンプレッサーのOutput Gainで行うのが一般的。
そうしておけばエフェクトをバイパスすることで簡単に効果のON/OFFも確認できる。

まとめ

今回はここまで。
Output Gianで圧縮後のソースを持ち上げる意外は基本的にレベルの大小差を小さくする場合とほとんど変わらない。
ポイントとしては、

・より音が前に出たように感じるか(レベルの小さいところは大きくなっているか)
・ダイナミクスレンジを狭めすぎていないか
・アタック成分を潰しすぎていないか
・音質の変化は許容もしくは狙いどおりになっているか

といったところ。
また、初心者の人が初めて今回の処理を実践した場合「もっと前に出したい!」っと思う人がいるかもしれない。
その場合は、ひとつのコンプレッサーで無理矢理潰すのではなく複数のコンプで段階的に潰すという方法をオススメする。
例えば、1つめのコンプレッサーで軽くピークを叩いて(-2~-3dB程度)2つ目以降で深めに潰すという感じ。

次回は「アタックをコントロールする」場合のコンプの使い方の解説をしてみたいと思う。
「音圧を稼ぐ」場合のコンプの使い方については、ちょっとまとめるのに時間が掛かりそうなので・・・後回しにさせてもらう(笑)

ではでは。

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