どもども。
今回は番外編ということで、「サイドチェインによるダッキング」について解説してみたいと思う。
サイドチェインとは?
サイドチェインとは、エフェクトのON/OFFや掛かり具合などといった動作条件(トリガー)をエフェクトを掛けたいトラックとは別のトラックで設定する手法のこと。
代表的なのが、キックの音量をトリガーにしてベースの音量を圧縮するというダッキングと呼ばれる手法。
その様がボクシングのパンチを避けるテクニックである「ダッキング」のようだということからこんな名前が付いたらしい。
主にクラブミュージックで多用される手法だが、POPやバンドモノなどのミキシングでもたまに使われる手法でもある。
一昔前は、キックが鳴るタイミングだけベースの音量を抑え込むという目的で使用されていたのだが、最近はかなり極端にベースやウワモノ全体を圧縮して、それによって得られる独特なノリを得るために使われる手法に変貌を遂げていたりもするので覚えておきたい。
ちなみにダッキングと呼ぶのは我々オッサン世代だけのようで、最近ではダッキング=サイドチェインと呼ばれているようだ。
「・・・言ってることがよくわからん。」
という人の為にサンプルを用意した。
EDMっぽい曲を作ってキックをトリガーにベースとウワモノをダッキングしてみたので聴いてみてほしい(コンプレッサーはWavesのC1を使用)。
こんな感じ。
免疫のない人は強烈な違和感を感じると思うが、こんなのが流行っているジャンルもある。
ちなみにサイドチェインのコンプレッサーをOFFにするとこんな感じ。
・・・まあこれはダッキングありでミックスした後にコンプをOFFにしただけの状態なのでバランスが悪いのはご愛嬌。
しかしウソのようなホントの話だが前者と後者、キックのレベルは全く同じ。
にもかかわらず、間違いなく前者の方が4つ打ちのキックがハッキリ聴こえると思う。
キックに重なっていたベースとウワモノが無くなるだけでこんなにも聴こえ方が違う。
サイドチェインの準備
サイドチェインの設定方法は各DAWによって様々。
各DAWでの設定方法については各自ググってみてほしい。
EDMやサイドチェイン自体がここ数年ブームだったのであっさりヒットすると思う。
ここでは筆者の環境で申し訳ないがLogicでの手順を紹介させてもらう。
1.圧縮したいトラックにサイドチェインに対応したコンプレッサーを挿入。
ここではベースにWavesのR-Compを挿入。
2.エフェクトGUIの「サイドチェーン」から動作条件にしたいトラックを選択。
ここではキックのトラックを選択。
これで準備OK。
もしも、ベース以外のトラックも圧縮の対象にしたい場合は、圧縮したい程度別にBusでまとめてそれぞれにコンプレッサーを挿入してやればいい。
筆者の場合は「ベース」、「パッド」、「リード」の3つに分ける場合が多い。
また、キックが実際に鳴っていないところでも圧縮効果を得たいという場合は、
1.実際には音を出さないゴーストキックトラック(隠れキックトラック)を作成して、ダッキングの効果を得たい箇所にキックの波形を貼り付ける
トラックを作成してキックの波形を貼り付け。
2.ゴーストキックトラックの信号を任意のBusチャンネルに送る
ゴーストキックトラックのSendsボタンを長押しして、表示されるタブから任意のBusチャンネルを選択。
これで自動的にBusチャンネルも作成される。
センド量は「0dB」に設定。
3.Busに送る信号をプリフェーダー信号に切り替える
再度Sendsボタンを長押しすると、「ポストパン」「ポストフェーダー」「プリフェーダー」を選択するタブが表示されるので「プリフェーダー」を選択。
これでゴーストキックトラックのレベルフェーダーの位置にかかわらずBusに信号を送れるようになる。
4.圧縮したいトラックに挿入したコンプレッサーの「サイドチェーン」タグから信号を送ったBusを選択
これでOK。
ゴーストキックトラックと信号を送ったBusのレベルフェーダーを-INFまで下げるのを忘れずに。
ちなみに筆者の場合、キックの鳴る鳴らないにかかわらずサイドチェイン用のゴーストキックトラックを作成している。
理由は後程。
どこを圧縮すればいい?
今までとはちょっと勝手は違うが結局やることは一緒。
音の圧縮。
キックが鳴るタイミングでベース&ウワモノを圧縮してやりたいわけだ。
キックが鳴るタイミングで、
ベース&ウワモノを、
圧縮。
キックの鳴るタイミングでベース&ウワモノの波形に穴を掘ってやるイメージ。
この穴をどんな形に掘るかで楽曲のイメージやグルーブ(ノリ)が激しく変化するので、各パラメータをコントロールして穴の形を決めていってやる。
各パラメータの設定
では、コンプレッサーの各パラメータが穴の形のどこをコントロールすることになるのかを見てみる。
まずはアタック・タイムとリリース・タイム。
こんな感じ。
アタック・タイムは穴の掘り始めの傾斜各度。
傾斜角度がキツければキツいほど(アタック・タイムが速ければ速いほど)素早く穴の最深部(最大圧縮量)に到達する。
ダッキングの場合、キックのアタック部分が鳴るタイミングには音の圧縮を全開にしておきたいので、基本的には最速~2ms程度でいいと思う。
ただし、ベース&ウワモノのド頭に潰しきれない部分が多少残っていた方が、キックとアタックと相まって強力なアタックを生んだりする。
さらに、この潰しきれない部分がキックに潰される感を生む大事な要素になってきたりもするので、ほんの少しだけド頭部分を残しておくような設定の方が個人的には好み。
まあベタッ!っとド頭から潰す人も多いのでこの辺は好みの問題ではある。
リリース・タイムについては穴の掘り終わりの傾斜角度。
傾斜角度がキツければキツいほど(リリース・タイムが速ければ速いほど)素早く圧縮を解除する。
こいつをコントロールすることで、どんなタイミングでベース&ウワモノの音量を元に戻すかを調整する。
メジャーなのは8分(キックのウラ)に合わせて圧縮を解除してやる方法だが、アタック部分のみを潰してすぐに解除させたり、8分より前のめりに解除させたりとそのタイミングは人によって様々。
また、同じ8分でも8分で急激に解除させるのか、16分あたりから緩やかに解除させるのかでも設定が変わってくる。
さらに、曲のBPM(テンポ)、後述のスレッショルドやトリガーにするキックの波形によっても設定が変わってくるので「○msだったら間違いない」という値は存在しない。
動画や雑誌に載っているリリース・タイムの値を参考にしたとしても、それはBPM、スレッショルド、トリガーにするキックの波形などの条件が全く同じじゃないとあまり意味がないので注意。
数値で云々というよりは、自分の表現したいノリをイメージして追い込んでやるといい。
続いてレシオ。
レシオは圧縮率になるので穴の深さをコントロールするパラメータになる。
ただし、これはスレッショルドより上の部分での話。
穴をある程度深く掘るためにはレシオの値だけでなくスレッショルドもそれなりに下げなければならないので注意。
ベースやパッドなどをガッツリ潰したいのであれば4:1~8:1くらい、リードやボーカル、全体などを軽く潰したいのであれば2:1~4:1くらいでいいと思う。
最後にスレッショルド。
こちらも基本的には穴の深さをコントロールするパラメータになるのだが、穴を空けている時間にも関係してくるということを覚えておきたい。
というのも、トリガーにしているキックの波形というものは、以下のように時間の経過と共に減衰していく。
ここにスレッショルド値のラインを描いてみるとこんな感じ。
ここからスレッショルド値のラインをさらに深くした場合を考えてみる。
波形がスレッショルド値のラインを超えている部分の長さに注目してみてほしい。
こうなる。
後者の方が波形がスレッショルド値のラインを超えている時間が長くなっているのがわかると思う。
つまり、キックのような波形をトリガーにした場合、スレッショルドを下げればさげるほど、リリース・タイムの値に関係なく圧縮を続ける時間が長くなるわけだ。
なので、圧縮量を増やしたいからと言ってベラボーにスレッショルドを下げると、リリース・タイムの値にかかわらず圧縮の解除は遅くなっていくということを覚えておきたい。
思ったようなノリが得られない場合の対処法
「簡単、簡単」と言われているダッキングだが、自分の求めるノリを出すためには結構試行錯誤が必要。
ということで、ここからは思ったようなノリが得られない場合の対処法をいくつか紹介してみる。
リリース・タイムを早くしても圧縮解除のタイミングが遅い
トリガーにしているキックの波形を見直す
ダッキングをするときに実は意外とキモになるのが、トリガーにしているキックの波形の形。
楽曲で使用しているキックの波形をそのままトリガーにして何の問題も起きない時はそれでいいのだが、こいつが原因でグルーブコントロールがうまくいかなくなる場合がある。
というのも、楽曲で使用しているキックの波形は、意図的に低域が増強されていたり、コンプやリミッターでぶっ潰されていたりで最終的に以下のような仕上がりになっている場合がある。
ぶっちゃけこれはまだマシなほうだが、こいつをトリガーにスレッショルドを下げていく場合を考えてみてほしい。
そう、こうなる。
ある程度スレッショルドを下げると、結構な時間圧縮が続く作りになってしまっていることがわかると思う。
例えばキックのウラ(8分)で圧縮を解除したい場合、以下の図のオレンジのラインまでには圧縮を解除しなければならない。
・・・既にギリギリ。
これではリリース・タイムもクソもない。
「なんかリリース・タイム最速にしても8分で返せねえんだけど・・・」という状態に陥った人は、自分の使っているキックが最終的にどんな波形になっているかを確認していてほしい。
では、楽曲で使用しているキックがそんな極太キックだった場合はどうしたらいいのか?
いくつか対処法があるので紹介する。
①EQでキックの波形を加工する
1つ目はEQでキックの波形を加工するという方法。
当然キックのトラックにそのままEQを挿してしまうと音色が変化してしまうので、センドで送ってBusに挿すか、ゴーストキックトラックを作成してキックの波形をコピーした後、そいつにEQを指す。
したらば、ハイパスで低域(~100Hz以下程度)を削ってやる。
キックは低域を多く含むパートなので、低域をハイパスでカットしてやるだけで波形をスマートに加工することができる。
例えば先ほどの波形。
こいつの100Hz以下をハイパスでカットしてやるとこうなる。
こいつをトリガーにスレッショルドを下げていけば・・・、
こんな感じで圧縮解除のタイミングを早めることができる。
ちなみにハイパス以外のカーブでEQ処理してもまた違った結果が得られるのでいろいろ試してみると面白い。
また、中にはサイドチェイン用にハイパスやローパスなどのフィルターが搭載されたコンプレッサーも存在する。
②トリガー用に別の波形を用意する
2つ目はゴーストキックトラックを作成して、思い切って楽曲で実際に使用しているキックとは別の波形を貼りつけてしまうという方法。
ゴーストキックトラックを作成してトリガーにする場合、実際に音は出さないので貼り付ける波形は楽曲で実際に使用しているキックの波形でなくても構わない。
だったらあらかじめトリガーとして使いやすい波形を貼ってしまえばいいってわけだ。
自分の扱いやすい波形を見つけておくと何かと楽なのでいろいろ試してみてほしい。
808系のキックなんかも意外と扱いやすい。
いずれの方法を使ってもコンプで圧縮される時間を短くすることができるので、リリース・タイムで圧縮解除のタイミングをうまくコントロールできるようになる。
これが筆者がゴーストキックトラックをトリガーにしている理由。
圧縮を緩やかにor急激に解除したい
これについても原因は前項と同じくトリガーにしている波形の形。
緩やかに解除したい場合はリリース・タイムを遅め、急激に解除したい場合は速めに設定してやればいいのだが、トリガーにしている波形の形によってはそれが不可能な状態に陥る。
そんな時は、狙っている圧縮量を稼いだ段階で、緩やかに解除したい場合であれば16分前後、急激に解除したい場合は8分手前あたりでスレッショルドを下回るような波形を試してみるといい。
自分好みのトリガーを見つけるまでは結構大変だが、いろいろと試してみることをオススメする。
また、それがめんどくさいという人は、前項のようにBusもしくはゴーストトラックにEQを挿してハイパスでカットし始める周波数を前後させるだけでもスレッショルドを下回るタイミングをコントロールできるので試してみてほしい。
またまた、コンプレッサーのモデルによってもリリース・タイムのカーブが全然変わってくるので、複数のコンプを所有している人は試してみるといい。
アタック・タイムを最速にしてもド頭がうまく潰れない
楽曲で使用しているキックをトリガーにしてダッキングをする場合、対象トラックの音をド頭部分からベタッっと潰すのはなかなか難しい。
というのも一般的なキックの波形をトリガーにして一般的なコンプレッサーを使用した場合、たとえアタック・タイムを最速にしても多少潰しきれない部分ができる。(理由は前回までの講座を参照)
波形先読み機能を持ったコンプを使用すればかなりベタッと潰せるが、手っ取り早くド頭を潰したいならゴーストキックトラックを作成して波形をコピーした後、その波形をほんの少し前のめりにずらしてやればいい。
キックのアタック部分が前にずれるので、より速いタイミングで圧縮可能となる。
ただし、ずらしすぎると反対にケツが食われてしまうのでやり過ぎには注意。
・・・なんか違う
全体を軽くダッキングする
特定のトラック(Busチャンネル)のみでダッキングをした場合、何とな~く楽曲全体のまとまりがないと感じる場合がある。
そんな時は、キックを含むリズムトラック以外を1つのBusにまとめてバレない程度にダッキングをしてやるとまとまりが出るので試してみてほしい。
楽曲で使用しているキック側を見直す
なんか違う理由は楽曲で使用しているキック側にあったりもする。
例えば何らかの方法で低域を増強している場合。
コンプなどで適度に余韻を締めておかないと妙なモタツキの原因になったりもするので注意。
また、EDMなどの場合はやはりコンプやリミッターで強めに潰したキックの方がウワモノを潰すような感じが出る。
そして、意外と見落としがちになるのがレベルバランス。
経験上、レベルフェーダーをチョイチョイするだけでしっくりする場合も多い。
コンプの設定に集中しすぎて基本となるレベルバランスの調整を忘れないようにしたい。
モニタの音量を変えながら調整する
これはダッキングに限った話ではないが、ミックスをするときはモニタの音量を大きくしてみたり小さくしてみたりしたほうがいい。
大音量でミックスしていると見えなかった部分が音量を絞ることで見える場合もある。
ダッキングの場合も音量を絞ることで余計な情報がカットされることで楽曲全体のノリが把握しやすくなったりするので、調整をしたら音量を絞って再確認してみることをオススメする。
・・・なんかめんどくさい
便利なプラグインを使う
・・・まあもうサイドチェインではないわけだが(笑)
世の中には疑似サイドチェインに特化したプラグインが多数存在する。
FL Studioに付属しているGross Beatなんかも有名。
・・・邪道と思われるかもしれないが・・・結構・・・みんな・・・持ってます(笑)
・・・邪道と思われるかもしれないが・・・結構・・・みんな・・・やってます(笑)
・・・邪道と思われるかもしれないが・・・ぶっちゃけ・・・今や・・・それがスタンダードになってます(笑)
あ、上のサンプルはちゃんとコンプレッサーでダッキングしましたよ?
まとめ
今回はここまで。
最重要ポイントはリリース・タイムだが、アタック・タイムやトリガーにするキックの波形もグルーブを左右する重要な要素になっているので注意。
最近ではすっかりクラブミュージック向けの手法というイメージのダッキングだが、その他のジャンルの楽曲においてもうっすら掛けることでキックとベースのグルーブ感をうまくまとめあげることもできる。
また、我の強いドラマーとベーシストの低域争奪戦の対策としても使える手法なので、是非試してみてほしい。
次回からは、実際のソースにコンプレッサーを掛けていってみようと思う。
ではでは。