どもども。
新年一発目の今回は「音のアタックをコントロールする」場合のコンプレッサーの使い方について解説してみようと思う。
音楽の世界でのアタック
まずは音楽の世界で言うところの「アタック」という言葉の意味から。
一般的に音楽の世界で「アタック」と言ったら「音の出だしの勢い」のことを指す。
まあ言葉だけではちょっと伝えにくいので、実際の波形・・・・をイメージした図で説明してみる。
例えば以下のような波形があったとする。
仮に、波形中の最大音量地点を「A」とした場合、音の出だし、すなわちアタックとは、音のスタート地点から「A」までの部分のことを指す。
この音の出だしの勢い(アタック)が強ければ強いほど音にパワーや勢いを感じ、弱ければ弱いほどやさしく緩やかな印象になる。
ミキシングでは、コンプレッサーなどのエフェクトを使い、各ソースのアタックを変化させることで各ソースや楽曲全体の印象やグルーブをコントロールしていく。
アタックの強弱を決定する要素
では、アタックの強弱はいったいどんな要素で決定されるのか?
2つある。
ひとつ目はアタック・タイム。
音というものは必ず無音の状態から始まる。
仮にこの無音の状態を0とすると、10という大きさの音が鳴る場合、必ず0からある程度の時間をかけて10に到達する。
どれだけ早く10に到達しようが、厳密には数十~数千分の1の時間がかかっている。
前項の図で言えば、音の始まりから最大音量地点「A」に到達するまでの時間だ。
この「音の始まりから最大音量地点「A」に到達するまでの時間」こそがアタック・タイム。
言ってみれば「音の立ち上がりにかかる時間」だ。
このアタック・タイムが速ければ速いほどアタックは強くなり、遅ければ遅いほど弱くなる。
具体的に何ms以下のアタック・タイムが速いか、何ms以上のアタック・タイムが遅いかという明確な基準があるわけではないのだが、一般的にはギター、ピアノ、パーカッションなどの音のように弾いた瞬間に「ジャーン!」っと勢いよく最大音量地点に到達するのがアタック・タイムの速い楽器、シンセパッドのように「フワー」っと緩やかに最大音量地点に到達するのがアタック・タイムの遅い楽器と言われている。
ちなみに、コンプレッサーなどのエフェクトに搭載されているAttackというパラメータはこのアタック・タイムをコントロールするパラメータ。
あれらはエフェクトの効果がOFF(0)から設定した値に到達するまでの時間をコントロールするパラメータだ。
2つ目は、最大音量地点「A」の大きさ。
以下の2つのサンプルを比べてみてほしい。
単純に後者の方が最大音量地点「A」の音量がデカいわけだが、注目すべきはアタック・タイム中の波形の傾斜角度。
両者のアタック・タイムは全く一緒。
しかし、後者の方がアタック・タイム中の波形の傾斜角度がキツくなっているのがわかる。
傾斜角度がキツくなるということは音の立ち上がりが急になるということ。
つまり、同じアタック・タイムでも最大音量地点「A」が大きいほうがアタックを強く感じるわけだ。
このように、アタックは「アタック・タイム」と「最大音量地点「A」の大きさ」によってその強弱が決まる。
アタックの強弱は相対的なもの
で、このアタックというものを理解するうえでひとつ覚えておきたいことがある。
それは、
アタックの強弱は相対的に決まる
ということだ。
アタックの強弱は「比較対象」の存在によってはじめて決まる。
例えば、以下のような波形のソースがあったとする。
このソースを「サンプル1号」と命名する。
さて問題。
このサンプル1号はアタックが強いか?弱いか?
どうだろう?
正解は・・・・・・・・・・・・「何とも言えない」だ。
アタック・タイムも最大音量地点「A」のレベルも確定しているが、これだけではアタックが強いのか弱いのかは何とも言えない。
強いのか弱いのかは比較対象があってはじめて決まる。
例えば以下のようなサンプル2号が比較対象だった場合。
サンプル1号のアタックは「2号と比べると強い」と言える。
同様に、以下のようなサンプル3号が比較対象だった場合。
サンプル1号のアタックは「3号と比べると弱い」と言える。
同様に、以下のような南極1号が比較対象だった場合。
「何となく若い時の母親に似ている気がする」と言える。
・・・このように、比較対象となるソースのアタック・タイム、もしくは最大音量地点「A」があってはじめてサンプル1号のアタックの強弱が決まる。
で、実はサンプル1号自身にも比較対象となる部分が存在する。
それはアタック以降の部分。
最大音量である「A」とアタック以降の音量を比較するわけだ。
このアタック以降の音量が最大音量地点「A」の音量よりも小さい場合、相対的に「A」を大きく感じるということだ。
当然、「A」とアタック以降の音量差が大きいほうが、より「A」を大きく感じる。
さらに、サンプル1号の波形を何らかの方法で加工し、「アタック・タイム」や「最大音量地点「A」の大きさ」が変化した時も、加工前のサンプル1号自身が比較対象となる。
こんな感じで、とにかくアタックの強弱を語るには比較対象が必要になるということを覚えておきたい。
最大音量は体感できてナンボ
前説が長くなってしまって申し訳ないが、最後に注意点をひとつだけ。
最大音量地点「A」は体感出来てナンボ
ということを覚えておきたい。
例えば下図のように最大音量地点「A」を記録する時間がほんの一瞬の場合、実際のところ人間の耳は「A」の音量を十分に体感できない可能性が高い。
いくら最大音量地点「A」の大きさが大きかったとしても、人間の耳がその大きさを体感できなければ「A」の大きさは伝わらない。
じゃ、どうしたら「A」の大きさを体感しやすくなるのか?
答えは「時間」。
最大音量地点「A」を維持する時間を長くしてやればいい。
もしくは「A」に近い大きさの音を増やしてやる。
人間の耳は「A」(もしくは「A」付近)の音量を維持する時間が長ければ長いほど、「A」を体感しやすくなる。
また、「A」を構成する音の周波数成分にも気をつけたい。
いくら音量が大きくても、それが人間の耳には聴こえにくい超低域だったとしたら「A」の大きさは伝わらない。
キックやベースなどの低音楽器の場合は、ピーク(最大音量地点「A」)が超低域で構成されている可能性があるので特に注意したい。
どこを圧縮すればいい?
ではいよいよ本題。
コンプレッサーでアタックをコントロールするためにはいったいどこを圧縮してやったらいいかを考えてみる。
前項の内容から、アタックをコントロールするための要素を考えてみると、
・他のソースのアタック・タイムの速さ
・他のソースの最大音量地点「A」の大きさ
・他のソースのアタック部分以降の大きさ
・己のアタック・タイムの速さ
・己の最大音量地点「A」の大きさ
・己のアタック部分以降の大きさ
こんな感じ。
ただ、「他のソースの・・・」というものについては、文字どおり他のソースをいじらなければいけなくなるのでここでは除外。
となると、
・己のアタック・タイムの速さ
・己の最大音量地点「A」の大きさ
・己のアタック部分以降の大きさ
この3つを変化させてやればアタックをコントロールすることが出来る。
つまり、コンプレッサーでどこを圧縮してやればこの3つを変化させることが出来るかを考えてやればいい。
アタック部分以降が長くて大きいソースの場合
まずはアタック部分以降が長くて大きいソースの場合。
これは比較的イメージしやすいと思う。
圧縮してやるのはアタック部分以降。
つまり、アタック・タイム以降の音量を小さくして相対的に音の最大音量地点「A」を大きく見せるわけだ。
イメージとしては、波形のド頭部分にポッコリ山を作ってやるようなイメージ。
アタック部分以降が短くて小さいソースの場合
アタック部分以降が短くて小さいソースの場合は、そもそも相対的に最大音量地点「A」が強調されているのでアタック部分以降を圧縮するだけではあまり大きな効果は望めない。
そんな時は音の最大音量地点「A」を圧縮してやるとよりアタックを強調することができる。
「・・・・ええええええー!?」
っと思う人もいるかと思うが落ち着いてほしい。
・・・そんな珍獣を見るような目で僕を見ないでほしい。
「いやいや、そんなことしたら逆に最大音量地点「A」が小さくなっちまうんじゃねーの?」
とお思いだろう。
そのとおり。
小さくなる。
・・・が、小さくなった後に出力レベルを上げてやるとしたらどうだろうか?
ちょっと極端な例で説明してみる。
こんな波形の、
アタック部分を圧縮して、
圧縮後の波形の出力レベルを上げてやる。
どんな変化が起きたかを確認してみる。
まず、アタック・タイム中のレベルの傾斜がキツくなり、アタック・タイムが速くなったのがわかる。
そしてもう一つ。
最大音量地点「A」の維持時間が長くなった。
まあこれはアタック部分をベタッと潰した極端な例だが、現実的な圧縮量の場合でも、
こいつの出力レベルを上げてやれば、
アタック・タイム中のレベルの傾斜がキツくなり、
最大音量地点「A」付近の音が多くなる。
こんな具合に、最大音量地点「A」を圧縮して圧縮後の波形の出力レベルを上げてやると、結果的にアタックは強くなるということがわかる。
ただし、当然アタック部分以降も同時にデカくなるので、アタック部分以降も適度に圧縮してやるのが望ましい。
ということで、アタック部分以降が短くて小さいソースの場合、圧縮してやるのは最大音量地点「A」とアタック部分以降の両方ということになる。
この2箇所を圧縮したのちに出力レベルを上げてやれば結果的にアタックは強くなる。
ちなみに、お気づきかとは思うがこの処理はコンプレッサーで「音を前に出す」処理とやっていることは一緒。
音が前に出る = アタックの音が大きく聴こえる
このことからもアタックが強くなるということが想像していただけると思う。
パラメータの設定
では各パラメータの設定を考えていってみる。
今回は今までよりもちょっとややこしくなるので心して挑んでほしい。
最大音量地点「A」以降が長くて大きいソースの場合
まずは波形をどのような形に加工してやりたいかを再確認。
こんな感じ。
では各パラメータをどう設定してやればこんな形に加工できるかを考えてみる。
単純に考えれば以下のような設定でイケるはず。
・アタックは最大音量地点「A」が極力つぶれないように遅め(最大音量地点「A」を過ぎた後)に設定。
・スレッショルドはアタック部分以降が圧縮の対象に入るように設定。
・レシオは2:1~4:1くらいで潰してやる。
・リリースは自然に聴こえるように設定。
これでOK・・・なのだが、実はこの設定を鵜呑みにしすぎるとちょっとした問題が起きる。
どんな問題か?
っというのも、実際の曲には「次の音」というものがあり、曲中では先ほどのような波形が連続して並んでいる。
で、ここで想像してほしいのが実際の曲中では、アタック部分以降が完全に消える前に次の音を迎える場合が多いということ。
つまりはこんな感じ。
この波形のアタック部分以降が圧縮対象になるようにスレッショルドの点線を引いてみると・・・
・・・スレッショルドを下回る部分がない。
っということは一度スレッショルドの値を超えたらずっっとコンプ掛かりっぱなしになってしまうわけだ。
「別に掛かりっぱなしでもいいじゃねーか!」
という人もいるかもしれないが、コンプ掛かりっぱなしという状態は圧縮した音をさらに圧縮していくことになる。
ボーカルのようにスレッショルドを下回るタイミングがあちこちにあるソースならアリだろうが、曲中ずっと鳴っているようなソースをコンプ掛かりっぱなしにするのはちょっといただけない。
かといってスレッショルドを浅くすればアタック部分以降が圧縮対象に入らなくなる。
さて、どうしたものか?
ここで活躍するのが「リリース」。
思い出してみてほしい。
リリースは「レベルがスレッショルド値を下回った後、どのくらい圧縮を続けるかを設定するパラメータ」。
そう。
つまりリリースはスレッショルド値よりも小さいレベルの音を圧縮できる唯一のパラメータなわけだ。
こいつを上手に使ってやれば、スレッショルドがアタック以降の部分に届いていなくてもアタック部分以降を圧縮できる。
イメージとしてはこんな感じ。
・スレッショルドはアタック部分以降が圧縮の対象に入らなくてもいいので、コンプ掛かりっぱなしにならないように浅めに設定。
・レシオはアタックが強調して聴こえる値を探る。(推奨値は2:1~8:1程度)
・リリースはアタック部分以降を圧縮しつつ、コンプ掛かりっぱなしにならない値に設定。
こんな設定にしてやれば、コンプ掛かりっぱなしやアタック部分の潰れすぎを防ぎつつ、上手にアタックを強調させてやることができる。
先程の連続した波形の例で言えば以下のような感じ。
リリースで潰す。
初心者の人にはちょっと酷な話だが、この処理をするためには今現在コンプレッサーのアタック・タイム、リリース・タイムがどの位置にあるのかを把握できる耳と想像力が必要になる。
ポイントとしては前回同様、まずはパラメータを最速に設定、徐々に遅めていき狙ったポイントを狙い撃ちするイメージ。
慣れるまでは、レシオとゲインリダクション量を派手に大きくしてパラメータを最速からゆっくりと遅めていってみてほしい。
徐々に、ソースのアタック・タイムの途中にいる感覚、アタック・タイムを登り切った感覚、アタック全体がひょこっと顔を出した感覚などが掴めるようになるはず。
最大音量地点「A」以降が短くて小さいソースの場合
こちらも基本的な考え方は一緒。
リリースをうまく使ってアタック部分以降を圧縮してやる。
ただし、今回は最大地点「A」も圧縮の対象なので、コンプレッサーのアタック・タイムは速めに設定。
・スレッショルドはアタック部分以降が圧縮の対象に入らなくてもいいので、ターゲットを最大音量地点「A」にさだめて設定。
・レシオは圧縮による音質の変化を確認しながらアタック部分以降もしっかり潰せる値に設定。(推奨値は2:1〜8:1程度)
・リリースはアタック部分以降を圧縮しつつ、なるべく次の音かからない値に設定。
ゲインリダクションは、大きくても7dB程度に留めておいたほうがいいのではないかと思う。
ま、これは曲のイメージや好みにもよる。
まとめ
今回はここまで。
で、最後にものすごく重要なことをひとつ。
今回は説明のために全く同じ波形を連続して並べて説明したが、実際の楽曲というものは様々な波形が並んでいる。
ということは、最大音量地点「A」の音量も次の音までの距離も場所によってバラバラなわけだ。
なので、コンプのスレッショルドやアタック・タイムやリリースを一部分の波形に合わせて設定してもぶっちゃけ全く意味がない(笑)
あくまで楽曲全体を通して多くの波形のアタックが平均的にイメージに近づくような設定を探してやるのが正解。
今回の内容は、「コンプでアタックを強調する場合、ひとつひとつの波形ではこんなことが起きてますよ~」的なものだと思ってほしい。
ポイントをまとめると、
・まずどこを圧縮するのかをしっかりと決める。
・次にそこを圧縮するためには各パラメータをどうしたらいいのかを考える(特にアタックとリリース)。
・不自然な仕上がりのところがないかをチェック。(わざとらしさ、ポンピング現象等)
・狙い通りにアタック感がコントロールできているか(当然)
といったところ。
やっぱり重要なのはアタックとリリース。
ぶっちゃけリリースについてはソースによってはどうにも上手くいかない場合もあると思う。
そんなときは、
コンプ意外のエフェクトを試す(笑)
今の世の中コンプレッサー以外にもいろんなエフェクトがある。
コンプレッサーはあくまで手段。
違うエフェクトを使ったほうが良い結果になる場合もたくさんある。
ちなみに、こんなプラグインもあるので参考までに。
次回は「余韻をコントロールする」場合のコンプの使い方の解説をしてみたいと思う。
ではでは。