どもども。
今回は、コンプレッサーによる「音の余韻のコントロール」について解説してみようと思う。
ADSR
さて、例の如くまずは音の「余韻」とはどこの部分のことを言うのかということから説明したいと思うのだが、その前にひとつばかり予備知識を。
このサイトの他の講座でも登場したことがある「ADSR」という概念をご紹介する。
この「ADSR」、DTMerにとっては何かと使える知識なので、知らない人は是非この機会に覚えてしまうことをオススメする。
ADSRとは、特定の要素に時間的変化を与えるためのパラメータで、シンセサイザーやエフェクトに搭載されているAttack(アタック・タイム)、Decay(ディケイ・タイム)、Sustain(サスティン・レベル)、Release(リリース・タイム)パラメータの総称。
シンセサイザーにおいてはEG(エンベロープ・ジェネレータ)とも呼ばれる。
A・D・S・Rそれぞれの意味は以下のとおり。
A・・・要素がスイッチONから設定した最大値に到達するまでの時間
D・・・要素がAttackで到達した最大値から、Sustainで設定した値に減衰するまでの時間
S・・・Decay後の要素の持続値
R・・・スイッチOFFから要素が完全に停止するまでの時間
図で表すと以下のようになる。
シンセサイザーやエフェクトでは、この「A・D・S・R」をコントロールすることで、様々な要素に時間的変化を与えていくわけだ。
ちなみに、ここで言う「A」が前回の講座で出てきたアタック・タイム。
では、ここでいくつか例をご紹介。
いろんな楽器の音量の時間的変化を見てみる。
○ピアノの場合
○ギターの場合
○キックの場合
○オルガンの場合
○シンセパッドの場合
○バイオリン(デタッシェ)
こんな感じになる。
音の余韻とは?
では本題。
一般的に、音の余韻と言ったらA・D・S・Rのどこの部分のことを指すのか?
正解から言ってしまうと、
Sustainが0の場合は「D(Decay Time)」
Sustainが0以外の場合は「R(Release Time)」
の部分になる。
ぶっちゃけ世間では余韻のことをサスティンと呼ぶことも多く、もはやそれが正解になっていたりもするのだが、サスティンとは正確には「持続部分(一定の値を維持する部分)」のことで、余韻とはまた別モノ。
ま、別に余韻=サスティンでもかまわないのだが、この知識でシンセやエフェクトのサスティンというパラメータをイジるとまずうまくいかないので注意が必要だということを覚えておきたい。
では、先程例で出てきた楽器の余韻部分をチェックしてみる。
○ピアノの場合
○ギターの場合
○キックの場合
○オルガンの場合
○シンセパッドの場合
○バイオリン(デタッシェ)
ここが音の余韻。
基本的にはRが余韻の正体なわけだが、生楽器というものは、人工的に持続音を生成する楽器を除けば基本的に持続音(一定の音量で鳴り続ける部分)が存在しない。
なので結果的にDが余韻になる。
余韻のコントロール
では、音の余韻をコントロールしたい場合は、どこをどうしたらいいか?
まあ、改めて説明する必要もない気もするが念のため(笑)
○余韻の持続時間をコントロールしたい場合
Sustainが0の場合は「D(Decay Time)」
Sustainが0以外の場合は「R(Release Time)」
この2つの値が大きければ大きいほど音の余韻は長くなり、小さければ小さいほど短くなる。
また、
Sustainが0の場合は「D(Decay Time)」中の音量
Sustainが0以外の場合は「R(Release Time)」の音量
この2つの値が大きければ大きいほど音の余韻はハッキリ聴こえるようになり、余韻を濃く感じるようになる。
どこを圧縮すればいい?
では、そんな余韻をコンプレッサーでコントロールしてやるにはどこを圧縮してやればいいかを考えてみる。
○余韻を短く、薄くしたい場合
これは比較的簡単に想像できると思う。
単純に余韻部分全体(アタック部分以降)を圧縮してやればいい。
こうすれば余韻を短く、薄くできる。
○余韻を長く、濃くしたい場合
「長くなんてできんのか!?」
っとお思いかもしれないが、こういうことだ。
コンプレッサーでアタック部分を圧縮して・・・
例のごとく出力レベルを上げると・・・
余韻部分のレベルも大きくなる。
さらに、今まで聴き取れなかった余韻音も聴こえてくるようになり、結果的に余韻を長く、濃く感じるようになる。
っということで、圧縮してやるのはアタック部分。
パラメータの設定
では各パラメータの設定を考えていってみる。
ぶっちゃけ前回の内容とカブってくるところが多いがご愛嬌。
余韻を短く、薄くしたい場合
まずは波形をどのような形に加工してやりたいかを再確認。
こんな感じ。
では各パラメータをどう設定してやればこんな形に加工できるかを考えてみる。
単純に考えれば以下のような設定でイケるはず。
・アタックは波形のアタック部分が極力つぶれないように遅め(アタック部分を過ぎた後)に設定。
・スレッショルドは余韻部分が圧縮の対象に入るように設定。
・レシオは2:1~4:1くらいで潰してやる。
・リリースは自然に聴こえるように設定。
これでOK・・・なのだが、実はこの設定を鵜呑みにしすぎるとちょっとした問題が起きる。
どんな問題か?
っというのも、実際の曲には「次の音」というものがあり、曲中では先ほどのような波形が連続して並んでいる。
で、ここで想像してほしいのが実際の曲中では、余韻が完全に消える前に次の音を迎える場合が多いということ。
つまりはこんな感じ。
先ほどのスレッショルドの線を引いてみると・・・
・・・スレッショルドを下回る部分がなくなってしまう。
この状態では一度スレッショルドの値を超えたらずっっとコンプ掛かりっぱなしになってしまう。
「別に掛かりっぱなしでもいいじゃねーか!」
という人もいるかもしれないが、コンプ掛かりっぱなしという状態は圧縮した音をさらに圧縮していくことになる。
ボーカルのようにスレッショルドを下回るタイミングがあちこちにあるソースならアリだろうが、曲中ずっと鳴っているようなソースをコンプ掛かりっぱなしにするのはちょっといただけない。
かといってスレッショルドを浅くすれば余韻部分が圧縮対象に入らなくなる。
さて、どうしたものか?
ここで活躍するのが「リリース」。
思い出してみてほしい。
リリースは「レベルがスレッショルド値を下回った後、どのくらい圧縮を続けるかを設定するパラメータ」。
そう。
つまりリリースはスレッショルド値よりも小さいレベルの音を圧縮できる唯一のパラメータなわけだ。
こいつを上手に使ってやれば、スレッショルドが余韻部分に届いていなくても余韻部分を圧縮できる。
イメージとしてはこんな感じ。
・スレッショルドは余韻部分が圧縮の対象に入らなくてもいいので、コンプ掛かりっぱなしにならないように設定。
・レシオは余韻が目的の小ささ、薄さに聴こえる値を探る。(推奨値は2:1~8:1程度)
・リリースは余韻部分を圧縮しつつ、コンプ掛かりっぱなしにならない値に設定。
こんな設定にしてやれば、コンプ掛かりっぱなしやアタック部分の潰れすぎを防ぎつつ、上手に余韻をコントロールすることができる。
先程の連続した波形の例で言えば以下のような感じ。
余韻を大きく、濃くしたい場合
圧縮対象はアタック部分なので、コンプレッサーのアタック・タイムは速めに設定。
・スレッショルドは余韻部分が圧縮対象に入らないように設定。
・レシオは比較的低めに設定。(推奨値は2:1〜4:1程度)
・リリースはアタック部分を圧縮し終えたら速攻で解除する気持ちで設定。
スレッショルドを深く、レシオを大きくすればするほど余韻部分を持ち上げられるが、必要以上にアタックが目立ってくるので、ゲインリダクションは大きくても7dB程度に留めておいたほうがいいのではないかと思う。
まとめ
今回はここまで。
で、最後にものすごく重要なことをひとつ。
今回は説明のために全く同じ波形を連続して並べて説明したが、実際の楽曲というものは様々な波形が並んでいる。
ということは、最大音量地点「A」の音量も次の音までの距離も場所によってバラバラなわけだ。
なので、コンプのスレッショルドやアタック・タイムやリリースを一部分の波形に合わせて設定してもぶっちゃけ全く意味がない(笑)
あくまで楽曲全体を通して多くの波形のアタックが平均的にイメージに近づくような設定を探してやるのが正解。
今回の内容は、「コンプでアタックを強調する場合、ひとつひとつの波形ではこんなことが起きてますよ~」的なものだと思ってほしい。
ポイントをまとめると、
・まずどこを圧縮するのかをしっかりと決める。
・次にそこを圧縮するためには各パラメータをどうしたらいいのかを考える(特にアタックとリリース)。
・不自然な仕上がりのところがないかをチェック。(わざとらしさ、ポンピング現象等)
・狙い通りにアタック感がコントロールできているか(当然)
といったところ。
やっぱり重要なのはアタックとリリース。
ぶっちゃけリリースについてはソースによってはどうにも上手くいかない場合もあると思う。
そんなときは、
コンプ意外のエフェクトを試す(笑)
今の世の中コンプレッサー以外にもいろんなエフェクトがある。
コンプレッサーはあくまで手段。
違うエフェクトを使ったほうが良い結果になる場合もたくさんある。
ちなみに、こんなプラグインもあるので参考までに。
次回は、番外編ということで「サイドチェイン」の解説をしてみたいと思う。
ではでは。