超初心者のためのミキシング講座 / リバーブ編⑤【空間の大きさのコントロール】

どもども。

今回は、前回サラッと終わらせてしまった空間サイズのコントロールについてねちねちっと説明してみようと思う。

前回使用したサンプルがこちら。
5m×5mの空間且つ、音源までの距離が5mの状態をイメージして、

プリディレイ:6.0ms
リバーブタイム:0.2255sec

に設定したものだ。
ここからパラメータを調整して空間のサイズをコントロールしてみる。

空間の大きさに関係するパラメータ

リバーブ編②でウンチクったとおり、空間の大きさに関係するリバーブのパラメータは、『プリディレイ(Pre Delay)』と『残響時間(Reverb Time)』の2つ。
ここで言うプリディレイとは原音に対して初期反射音がどのくらい遅れて聴こえるかだ。

この2つをコントロールしてやれば空間の大きさをコントロールできる。
具体的には、

ある空間のサイズをより大きくしたい場合

・プリディレイをより遅くする
・残響時間をより長くする
ある空間のサイズをより小さくしたい場合

・プリディレイをより早くする
・残響時間をより短くする

こんな感じになる。

パラメータとReverb Typeによる空間サイズのコントロール

プリディレイと残響時間をコントロールする方法は2つある。
一つはそれらをコントロールするために用意されているパラメータを直接調整する方法。
まあごくごく当たり前の方法だ。
そしてもう一つが『プリセット』や『Reverb Type』の変更するという方法。
これらを変更すると、プリディレイと残響時間を含む各パラメータがその道のプロが調整してくれた最適な値に変更される。
『Room』や『hall』などの実在する空間の名前の中から自分の表現したい空間サイズに一番近いと思われるものに変更してやればそれでOK。
『Room』であれば部屋で発生する残響音のプリディレイと残響時間に、『Concert Hall』であればコンサートホールで発生する残響音のプリディレイと残響時間に自動調整してくれる。
ただし、『Plate』や『Spring』などのReverb Typeは空間をシミュレートしたものではなくアナログリバーブをシミュレートしたものなので注意。
これらは自分でプリディレイと残響時間を調整するのが前提になる。
試しに先程のサンプルのReverb Typeを前回選択した『Medium Live Room 10』から『Platinum Hall(Light)』に変更してみる。
するとこんな感じになる。

【変更前】
【変更後】

あっという間に別の空間に。
これが、

「リバーブなんて簡単よ!」

という人が多い理由。
しかし、この方法のみで空間のコントロールを行おうとした場合、表現できる空間のサイズやリスナーと音源までの距離(音の前後)のコントロールに限界がある。
より緻密な空間コントロールをするためには、プリディレイと残響時間を個別に調整してやる必要がある。

プリディレイと残響時間によるコントロール

さて、プリセットやReverb Typeを変更するだけで求める空間の大きさを手に入れることができたのなら万々歳だが、問題はその中に自分の求める空間サイズに合ったものが無かった場合。

「Roomだと小さすぎるんだけどHallだとちょっとデカすぎるんだよな~」

「HallはHallでももう少しデカいホールなんだよな~」

なんて場合だ。
この場合は、自分の表現したい空間のサイズに一番近いと思われるものをチョイスした後に、プリディレイと残響時間をイジって空間サイズを調整してやる必要がある。
ここでは空間サイズをより大きくする方法を紹介してみるが、逆に小さくしたいという場合は全く逆のことをやってやればOK。

ではでは。

前述のとおり、空間のサイズをより大きくしたい場合は、

・プリディレイをより遅くする
・残響時間をより長くする

これでイケる。
じゃ、これらの値を具体的にどのくらい変えればどのくらい空間の大きさが変わるのか?
プリディレイについては音が空気中を進む速度さえわかれば小中学生レベルの計算でなんとなくは算出できる。
計算がめんどくさい人は以下の表の音源までの距離が1番遠い時の数値を参考にしてみてほしい。

大体こんな感じ。
但しこれは、幅、奥行き、高さが全て等しい空間かつ、空間に物体が何も無い場合の理論値なのであくまで参考資料だと思ってほしい。
違和感を感じるようであれば己の耳を信じたほうがいい。
また、何度も言っているが『リアル=良いミックス』ではない。
理論上はこうだけどこっちの方が聴きやすいと思った場合も聴きやすさを重視したほうがいい。

残響時間については残念ながら『このくらいの空間を表現したいならこのくらいの値がベスト!』というものは存在しない。
というのも、残響時間というものは空間の大きさ以外に壁や天井の素材や形状によっても変化する。
なので、どのくらいの長さにすれば自分の求める空間の広さを表現できるかは己の耳で判断するしかない。
デカすぎると思ったら短く、小さすぎると思ったら長くを繰り返して最適な値を探っていく。

「いやいや、まずもってどのくらいの空間にするのがベストなのかすらわからんのだが・・・」

という人は、まずは世に出ている音楽の中から自分のイメージに近いものを見つけて、そいつの残響音がどんな感じで鳴っているのかを調べる。
で、そいつをお手本にして残響時間を調整してみるといいと思う。
また、これをやりだすと残響時間の他に残響の『質感』、『周波数成分』、『聴こえてくる場所』、『ステレオ感』などいろんなものが気になり始めてくる人もいると思うが、この辺りのコントロールは次々回くらいに解説してみようと思うので、まずは『空間のサイズ』のみに意識を集中させてパラメータを調整してみてほしい。

ではいざ実践。
サンプルはReverb Typeを変更する前の状態に戻す。
まずはプリディレイ。
先ほどの表を参考に表現したい空間のサイズにあったプリディレイに変更してやる。
前回は5m×5mの空間をイメージして6msに調整したが、今回は30m×30mの空間をイメージして36msに変更してみる。
するとこんな感じになる。

【変更前】
【変更後】

次に残響時間。
ここではSizeを5から30に変更してみた。
残響時間は0.2255secから0.8403secに変化。

【変更前】
【変更後】

どうだろうか?
空間が大きくなったように感じると思う。
まあ音楽的なあーだこーだはいろいろあると思うが、プリディレイと残響時間をイジることで空間の大きさをコントロールできるということはご理解いただけたと思う。

まとめ

お疲れ様でございます。

残響時間については、最初のうちはどのくらいの長さにすればいいのかがわからないという人が多いと思うが、これについては己の感覚を信じるか、いろんな曲を聴いてどのくらいの残響時間ならどのくらいの空間を感じるかという感覚を身につけるしかない。
それまではこんな感じの空間にしたいという曲をお手本として残響時間を調整してやればいい。
正解なんてあるようでないのようなものなので無問題

今回はここまで。

次回は、空間内でのリスナーと音源までの距離(音の前後)をコントロールしてみようと思う。

ではでは。

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