超初心者のためのミキシング講座 / リバーブ編⑧【リバーブ成分へのEQ処理】

どもども。

今回はリバーブ成分へのEQ処理についてウンチクってみようと思う。

「リバーブ成分にエフェクト?めんどくせえからオレはパス。」

という人も多いと思うが、ちょいとひと手間かけてやるだけで楽曲の印象をかなり向上させることができるので是非とも試してみてもらいたい。

自然界における残響音の周波数特性

音というものは空気中を進む過程でエネルギー量が減衰していく。
これは前回までに説明した通りだが、その減衰量には周波数帯域によって違いがある。
つまり、低音と高音では一定距離を進む過程で減衰するエネルギー量に違いがあるということだ。
一般的に高音と低音では高音の方がエネルギーの減衰が速いと言われており、ある地点Xにおいて低音Aと高音Bが全く同じ音量で発生した場合、Xから20m離れた地点でのエネルギーの減衰量はBの方が大きくなる。
つまり、20m離れた地点での音量はAの方が大きくなるということになる。
で、人間の声や楽器の音というものは様々な周波数帯域の音が混ざりあって構成されている。
ってことは、音というものは空気中を進んでいく過程で周波数特性が変化していくものだということがわかる。
そしてその変化は、空気中を進む距離が長ければ長いほど大きくなっていく。

さて、話を残響に戻す。
前回までに説明した通り、残響とは複数の反射音の集合体。
この複数の反射音は直接音(原音)と比べて空間を移動する距離が長い。
つまり、原音と反射音は周波数特性に違いがあるということになる。
また、反射の回数が多いほど空間を移動する距離が長くなるので、反射の回数が多い反射音ほど直接音の周波数特性との違いが大きくなっていくことになる。
残響は原音から少しずつ周波数特性が変化していく反射音の集まりというわけだ。

ではリバーブで残響を生成した場合、上記の周波数特性の変化は再現されるのか?
安心してほしい。
アルゴリズミックやIRリバーブなどのデジタルリバーブが主流の現在では、『Room』や『Hal』lなどのリバーブタイプを選択するだけで周波数特性の変化も見事に再現してくれるものがほとんどだ。
IRリバーブに至ってはそりゃ超絶にリアルだし、各社のアルゴリズムもまあ素晴らしい。
なので、単にリアルな残響を原音に付けたいのであれば、前述の周波数特性の変化を再現するためにわざわざリバーブ成分にEQ処理をする必要は基本的にはない。
ただし、『Spring』や『Plate』などのアナログリバーブを再現したリバーブタイプを選択する場合はちょいと話が別。
これらはそもそも自然界における残響を忠実に再現したものではないので、リアルさを追求するためには生成したリバーブ成分にひと手間加える必要が出てくる。
EQ処理もその一手間にあたるわけだが、自然界における残響を忠実に再現するためには一つ一つの反射音を個別にEQ処理する必要がある。
・・・そう、はっきり言って不可能だ。
一個人がこれらのリバーブタイプでリアルさを追求するのはそもそも限界があるということを知っておいたほうがいい。
だからこそ各社が研究に研究を重ねて『Room』や『Hall』などのリバーブタイプを作りだしたし、だからこそIRリバーブなんてものが誕生したわけだ。
なので、リアルさに重点を置くなら潔く『Room』や『Hal』などのリバーブタイプに変更するかIRリバーブを使ったほうがいいだろう。

「なんだよ!じゃあ結局のところリバーブ成分にEQ処理なんてしなくていいんじゃねーか!」

という声が聞こえてきそうだがそうでもない。
ミキシングではこれとは全く異なる目的でリバーブ成分にEQ処理をする。
一体どんな目的か?
答えは至ってシンプル。
楽曲をより聴きやすくするためだ。
そもそも自然界において残響は決して楽曲の聴きやすさというものを考慮して発生するものではない。
ライブハウスやスタジオ、部屋での生演奏が本当に聴きやすいかって話だ。
コンサートホールなどのように音響を計算して作られる空間もあるのだが、これらも決して全てのジャンルの音楽において聴きやすい残響が発生するわけではない。
つまり、リアルな残響が必ずしもいい結果を生むとは限らないわけだ。
そこで、ミキシングでは楽曲をより聴きやすい状態にしてやるためにリバーブ成分にEQを掛けてやる。

ミックスにおけるリバーブ成分へのEQ処理

さて、では具体的にどんなEQ処理をすれば楽曲がより聴きやすくなるのか?
一番有名&簡単なのがハイパスで低域を適度にカットしてやるという処理。
実際にやってみる。
以下は前回リバーブを挿したドラムトラックのサンプル。

思うことは各々だと思うが、仮に『サイズ感はいい感じなんだけどちょっと低域の輪郭のボヤけ具合が気になる』と感じたとする。
ここで初心者がとる行動は2つ。

①残響時間を短くする。
②原音との音量バランスを小さくする。

この2つ。
しかしこれらの方法でなんとかしようとすると、

空間のサイズが小さくなってしまう

仕方なくパラメータをもとに戻す

またボヤけ具合が気になる。

・・・の無限ループに突入してしまう。
そこでEQの登場。
リバーブ成分にEQを挿してハイパスで100〜150Hz以下くらいからカットしてやる。
するとこうなる。

どうだろう。
バラードなんかだともっとわかりやすいのだか、低域のボヤけ具合が緩和されスッキリした印象になったのと思う。
それでいて空間のサイズ感はさほど変わらないように感じないだろうか?
エネルギーの減衰が遅い低域をカットするという自然法則を完全に無視した処理なわけだが、聴きやすさを重視するミキシングではよく使われる手法で、ボーカルに掛けるプレートリバーブなんかでもよく使われる。
濁りの少ないきれいな響きを得られるうえ、バラードなどでサビなどの盛り上がり部分で強めに響くリッチな残響をつけるなんてこともできるので試してみてほしい。
ただし、あまりにも低域をカットしすぎるとリアルさが微塵もなくなり機械的な印象が強くなるので注意。

こんなかんじで全てのトラックの低域をバイパスでカットしたものがこちら。

【処理前】
【処理後】

違いがわかるだろうか?
バラードなんかだともっとわかりやすいのだが・・・。
また、逆に残響の高域部分をカットする場合もある。
こちらはエネルギーの減衰が早いと言われる高域をカットするというどちらかといえば自然法則に沿った処理。
プレートやスプリングなどのリバーブタイプを使用したときやディレイを併用したときなんかに『な~んか機械的な残響なんだよな~』なんて感じるようなときに使う場合が多い。
ただし、この場合はローパスで高域を『ぶった切る』のではなくシェルビングなどで高域を『弱める』イメージにしておいたほうがいい結果を得やすいと思う。

まとめ

今回はここまで。

今回は低域or高域をカットする方法のみを紹介したが、原音トラック同様に特定の帯域をカットしたりブーストしたりすることで曲の印象を変えるなんてこともできる。
まあ、めんどくさいという人は低域or高域のカットだけでも楽曲の聴きやすさや印象をかなり変えられるので是非とも試してみてほしい。

次回は、リバーブ成分のPANコントロールについてウンチクってみようと思う。

ではでは。

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Universal Audio APOLLO TWIN

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audio-technica ATH-M70x

海外で人気のMシリーズのフラッグシップモデル。 決して周波数特性がフラットという機種ではないが、こいつの中高域の情報量は驚異的。 空間表現能力も驚異的でゴチャゴチャしている部分が丸見え。 他のヘッドホンで聴こえなかった音が面白いくらい見つかる。 くっついてしまったり、隠れてしまっている音もこいつなら一つ一つしっかりと確認できる。 但し、中高域が耳に張り付いてくるタイプなので、低域のモニタリングは慣れが必要? 「低域もある程度見える超高解像度版900ST」といった感じ。

YAMAHA MSP5 STUDIO

銘機「NS10M STUDIO」を開発したチームによるニアフィールドモニター「MSP STUDIO」シリーズの一番小さいサイズ。 フラットさに定評があり、モニタスピーカーとして各方面での評価も高い。 音質も非常にクリアで音像や定位もしっかりと捉えることができる。 とにかく飾り気のない素直な出音が特徴。 コスパはかなり高い。