今回はオーバーヘッドマイクとドラム全体へのEQポイントをご紹介。
まずはオーバーヘッドマイクからいってみる。
オーバーヘッドマイク(OHマイク)
OHマイクはドラムセットの上部からドラム全体の音を拾うマイク。
配置上クラッシュやライドシンバルの成分がメインになるものの、他のピースのオフマイク成分も含む。
ソースをどう使うかによってもEQ処理の内容は変わってくるが、おおよそのイメージとしてはシンバルの補正を行いつつ他のソースのオンマイクとのブレンド具合を調整してやるような感じ。
ただし、ソフトウェア音源を含め、各ピースのオンマイクが全て用意できる場合は、OHマイクは思い切ってシンバル専用のソースとして処理してやってもいいと思う。
オフマイク成分のコントロールは思い切ってRoomマイクに任せてしまったほうがまとめやすかったりする。
また、最近の音源はOHマイクに各ピースの音をどのくらい拾わせるかを設定出来たりもするので、音源の設定のみで簡単にシンバル専用ソースに変身させることも出来る。
・・・が、ここではあえてそんな便利機能を使わないでEQのみで対応する方法を紹介させてもらう。
今回もサンプルを用意。
使用音源はいつも通りNative Instrumentsの「Studio Drummer」。
キットは「Session Kit – Full」。
エフェクトを全てOFFにして書き出した後、各ピースのオンマイクについてはコンプとEQ、OHマイクについてはコンプで音作りをしてある。
その後、OHマイクのシンバルの音に合わせる形でバランスをとり、Busでまとめた後にコンプ、テープサチュレーター、マキシマイザーを指した。
今回はこの条件からEQ処理をしてみたいと思う。
聴いてみる。
ちなみにエフェクトを全てOFFにした素っ裸の状態がこちら。
どちらも同じ素材でレベルのピークは0dB。
このあたりの処理については次に予定しているコンプ編など次回以降のミキシング講座で紹介したい。
帯域別のEQポイント
では、いつものようにどの帯域にどんな成分があるのかを見ていく。
20Hz〜150Hz 重量感、キックの重み
主にキックの重量感を感じる帯域。
OHマイクのみを聴くとほんのりしか聴こえないのだが、オンマイクと重なると結構ズッシリと重さがアップする。
予想以上に重量感が増してしまう場合は適度にカットしてやるといい。
また、オンマイクに比べて余韻が長めなので、タイトに仕上げたい場合も程よくカットしたほうがいいと思う。
全体的なイメージで言えば「重量感」を担う帯域。
150Hz〜300Hz 量感、スネアの重み
主にスネアの重さ、太さを感じる帯域。
オンマイクのスネアと重なると豊かな太さを演出してくれるが、重くなりすぎると感じる場合は適度にカットしてやるといい。
全体的なイメージで言えば「量感」を担う帯域。
300Hz〜1kHz 篭り、胴なり、余韻、共鳴音
OHマイクはピースとマイクの距離が遠いため各ピースの余韻や共鳴音などの響きが豊かになる。
反面、「篭る」、「各ピースの輪郭がボヤける」、「余韻が強くなる」という作用もあるので、不要な場合は各ポイントを見つけてピーキングでカットしてやるといい。
また、ここにはシンバル類のモワーンとした成分も含まれているので、シャリっと仕上げたい場合もピーキングで取り除いてやるといいと思う。
全体的なイメージで言えば「篭り」、「響き」を担う帯域。
1kHz〜4kHz クラッシュシンバルのアタック、ライドシンバルのカップ
主にクラッシュシンバルのアタック、ライドシンバルのカップ音の成分を含む帯域。
1〜2kHzあたりにクラッシュのアタック、2〜3kHzあたりにライド(カップ)のチンチ・・・あっ・・・カンカンという音を際立たせる成分があると思う。
クラッシュとライドのバランスを補正したい場合はこの辺りを突いてやるといい。
全体的なイメージで言えば「アタック感」を担う帯域。
3kHz〜8kHz シンバルのエッジ
主にシンバルのエッジを際立たせる成分を含む帯域。
ブーストするとシンバルの派手さを演出できるが、やりすぎると一気に下品になるので注意。
逆に荒さを出したい時は広めのQで適度にブーストしてやるといい。
また、5kHzあたりにはライドシンバルのチンチ・・・あ・・・ティンティンという音を際立たせる成分があると思う。
全体的なイメージで言えば「派手さ」を担う帯域。
8kHz〜 煌びやかさ、空気感
主にシンバルやハイハットの煌びやかさや全体の空気感を感じる帯域。
どのくらいシンバルをキラつかせるかをコントロール出来る。
全体的なイメージで言えば「ハイファイ感」、「煌びやかさ」、「空気感」を担う帯域。
と言った感じ。
シンバルの音色については各ピースの音色補正と同じような感覚で処理をしていき、その他のピースについてはイメージに合わせて全体的に補正をしてやるといった感じだろうか。
具体例
では具体例をいくつか。
OHマイクだけを聴いてもあんまり意味がないので、各ピースのオンマイクと重ねたものを聴いてみる。
鳴り、余韻、響きを適度に抑える
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
キックとスネアの鳴りや余韻を抑えるために、200Hzと500Hzあたりを多めにカット。
全体的にスッキリした印象になったのがわかると思う。
シンバルの煌びやかさを強調してハイファイな感じに
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
4kHz、7kHz、15kHz~をブーストしてシンバルの煌びやかさを強調。
今回はピーキングで処理しているが、ハイシェルフで高域全体を持ち上げてもいいと思う。
オフマイク成分をカットしてシンバル専用ソースに
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
必要な成分以外をカットしてオフマイク成分を取り除いてやる処理。
キックやフロアタムのオフマイク成分をカットする場合は150kHz以下、スネアやハイタムのオフマイク成分までカットする場合は300Hz以下くらいまでをハイパスでカット。
それより上からカットするとよりオフマイク成分を取り除けるが、シンバルの響きにも影響を与え始める。
サンプルは効果がわかりやすいように多少大げさに削っている。
シンバルをハイファイに仕上げるならこのくらいまでガッツリカットしてもいいとは思うが、やり過ぎるとペラッペラで嘘くさい仕上がりになるので注意。
ドラム全体
さて、お次はドラム全体へのEQ処理。
ベースや上モノが重なった場合のEQ処理については後に紹介するとして、ここではドラム全体のイメージの補正という目的でのEQ処理を紹介させてもらう。
「各ピースのEQ処理をきっちりやっていればドラム全体のEQ処理なんていらないんじゃ?」と思うかもしれないが、重ねてみたらイメージと違ったなんてことはよくあることだ。
各ピースの様々な成分が重なりあうわけだから意図しない成分が膨れたり、聴こえずらくなることがあって当然。
そんな時に、ドラム全体のイメージをEQ処理で補正してやる。
ただし、かなり深くEQ処理をしなければいけないようなら、一旦各ピースのEQ処理に戻ったほうが良いと思う。
帯域別のEQポイント
では、帯域別にポイントをみていく。
OHマイクのそれとほぼほぼかぶってくるのだが、目的はより「ドラム全体のイメージの補正」に絞られる。
20Hz〜100Hz 重量感のコントロール
100Hz〜300Hz 量感・太さのコントロール
300Hz〜2kHz 篭り・余韻のコントロール
2kHz〜8kHz 派手さ・荒々しさののコントロール
8kHz〜 煌びやかさ、空気感のコントロール
こんな感じ。
思い描いているイメージに近づくように各帯域を補正してやる。
具体例
では具体例をいくつか。
先ほどのサンプルのOHマイクを以下のようにEQ処理したものをサンプルとしてそのまま使用させてもらう。
重量感を和らげる
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
重量感を和らげるため、80Hzあたりをカット。
全体的に軽い感じになったのがわかると思う。
篭り、余韻を抑える
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
80Hz(重量感)、300Hz(篭り)、750Hz(響き)あたりを多めにカット。
全体的にスッキリした印象になっているのがわかると思う。
派手で荒々しいイメージに
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
3kHzあたりを中心に広めのQでアタック成分を持ち上げる。
迫力、荒さが増した感じになる。
煌びやかさ、空気感をアップ
※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります。(最初はOFF)
300Hzあたりの篭りをカットして、4kHz以降をハイシェルフで程よくブースト。
まとめ
今回はここまで。
OHマイクのポイントは、
・シンバルの音色をどう補正するか
・シンバル専用ソースとして使用する場合はハイパスでカットし始める周波数をどこに設定してやるか
・オフマイク成分も使うなら目標とするイメージにするためにはどの成分を残してどの成分をカットするか
といった具合。
シンバル以外のピースについては、マイクとの距離が離れているためオンマイクに比べて余韻や響きを多く含む。
結果生々しさや迫力を生むわけだが、同時に輪郭はボヤけ気味になっていくのでジャンルや好みに合わせて調整してやるといいと思う。
ドラム全体のEQ処理については、
・あくまで全体のイメージ補正
ということを念頭に臨むといいと思う。
今回でドラムのEQポイントは終了。
次回は「エレキギター」のEQポイントをご紹介。
ではでは。