どもども。
今回はイコライザー総集編ということで、ボーカルを含めた全てのソースを重ねたときのEQ処理のポイントを問題点別に紹介してみようと思う。
まずは自分の表現したい空間を明確に
最初にゴールの設定。
ミキシングはゴールをどう設定するかでその処理内容はガラリと変わる。
まずはゴール(自分がどんな空間を表現したいのか)を明確にしておいたほうがいい。
毎回図におこす必要はないと思うが、最低でも頭の中で「こういう空間を表現したい」というイメージは固めておきたい。
今回は以下のような空間をゴールに設定する。
イメージとしては「狭めのスタジオ」。
復習になるが、EQでコントロールできるのは「音の上下」。
厳密に言うとやっていることは帯域別の「音の前後」のコントロールなのだが、それらを積み重ねることで音の上下を組み立てていくといったイメージ。
すなわち、今回のミッションは、
「聴こえてきてほしい高さから聴こえてきてほしい音がしっかりと聴こえるようにしてやることで、ゴールのような上下の配置のように聴こえるようにしてやる」
ということになる。
ゴールとのギャップを探る
では、さっそくサンプルを聴いてみる。
素材自体は前回までの講座で使用したものと同じだが、今までに施したEQ処理はハイパスを含めて全て外してある(音作り目的のEQ処理は除く)。
使用音源は、
ドラム:「Native Instruments Studio Drummer」
ベース:「SPECTRASONICS Trilian」 + 「Amplitube Ampeg STV」
ギター:「VIR2 ELECTRI6ITY」 + 「UAD-2 Marshall Plexi Super Lead 1959」
ボーカル:・・・30代のオッサン
っといった具合。
これらをすべて重ねたものがこちら。
【EQ処理前】
ん~。
いい感じにゴチャゴチャしてくれている。
ちなみに、このサンプルはEQ以外のエフェクトも併用しながら組み立てた後に無理矢理EQだけを外したものなので、細かいことは・・・気にしないでほしい。
こいつのどこをどうすればゴールのような上下の配置になるかを考えてみる。
各々感じることはあるとは思うが、おおよそ以下のようなところが気になるのではないだろうか?
①全体的に上下の配置があまり感じられない
②キックが聴こえにくくなった
③ベースが聴こえくくなった
④スネアが聴こえくくなった
⑤ボーカルが埋もれ気味
・・・まるで仕組まれたかのようにありがちな問題点だが(笑)
ちなみに「キックが聴こにくくなったとかっておもいっきり音の前後の話じゃねーのかよ!」っと思ったそこの君!
こう考えてくれ。
「キックが聴こえにくくなった」ってことは、言い換えれば 「キックが聴こえてほしい位置から聴こえなくなった」ってことだ。
ね?上下でしょ?
・・・ま、どっちでもいい(笑)
っということで、今回はこれらの問題点別にEQ処理のポイントを紹介していってみる。
問題点別EQ処理のポイント
さて。
ほぼほぼ前回までの復習的な内容になるが、ボーカルが入ってきたことで各ポイントは変わってくるのでご注意を。
それからドラムについては各ピース(キックやスネア単体)までさかのぼってEQ処理をする可能性もあるのであしからず。
①全体的に上下の配置があまり感じられない
音の上下の配置があまり感じられないということは各周波数帯域に複数のソースの音が混同していることが原因。
特にキックとベース、ベースとギターの低域、ボーカルとスネアなどは周波数特性が似ているため、カブりにカブっていまいち上下の位置関係がハッキリしなくなる。
つまり、このカブリを取り除いてやれば音の上下が明確になっていく。
まあ、そもそも楽器の音の周波数成分なんてものはかなり幅広い帯域に広がっているのでぶっちゃけ「カブって然り」なわけだが、各ソースにとってそれほど重要ではない部もあったりするので、そういったところを上手に処理してやるだけでも音の上下を感じやすくすることができる。
ここでは毎度おなじみの「ハイパスを使った最低域の処理」と「ハイシェルフを使った高域のコントロール」をやってみる。
ハイパスで最低域に差をつける
まずはハイパスを使った超低域~不要な低域の処理。
各ソースのハイパスでカットし始める周波数に若干の差をつけてやることで、音の上下の位置関係を明確にしてやる。
今回はゴールである配置に合わせて以下のようにカット。
ギター:120Hzからカット
スネア:120Hzからカット
ボーカル:100Hzからカット
ベース:60Hzからカット
キック:40Hzからカット
ちなみにボーカルについては、
男性:100~150Hz
女性:150~200Hz
あたりからカットしてやるとといいと思う。
歌声に変化が起きないギリギリのラインを探ってやるようなイメージ。
聴いてみる。
【処理前】
【処理後】
不要なカブりがなくなって上下の配置が明確になったのがわかると思う。
同時に、各ソースの音が若干聴き取りやすくなった。
高域をハイシェルフでコントロール
次に、高域をハイシェルフでコントロールして各ソースの高さを調整してやる処理。
高さ(上の位置)をコントロールするということは、上下のレンジ(幅)を広げたり狭めたり出来るということなので相対的に音の上下を明確にすることができる。
ぶっちゃけ今回はあまりいじらなくてもいい気がしたのだが、せっかくなのでシンバルを持ち上げてみる。
【処理前】
【処理後】
単に「ハイファイになった」っということではなく、シンバルの鳴る位置の変化に注目してみてほしい。
また、シンバルの位置が高くなるほどドラムの音像は前に出てくるので、ボーカルとの位置関係には注意が必要。
②キックが聴こえにくくなった
ここからはスッキリポイントとハッキリポイントの捜索。
おさらいだが、
スッキリポイント・・・・カットすることで相手がやたらとスッキリ聴こえるようになるポイント
ハッキリポイント・・・・ブーストすることで己がやたらとハッキリ聴こえるようになるポイント
といった感じ。
EQをくぐらせてGainを極端に下げ(上げ)てFreqを左右に移動させてポイントを探る。
あとはQの幅と量を決めてブースト/カット。
単に「聴こえるようにする」のではなく「どこから聴こえるようにする」ということも意識してブースト/カットする量を考えたい。
キックの場合、ポイントになるのは主にメインの低域成分とアタック成分。
スッキリポイントについては、それらに干渉している各ソースの音を適量カットしてやるイメージ。
ただし、絶対的エースであるボーカルは基本的にカットしない。
ハッキリポイントについてはその逆。
キック自身のポイントとなる成分をブーストしてやることで抜けを改善してやる。
ポイントの探し方はスッキリポイントの逆。
スッキリポイントよりは探しやすいと思う。
実際にやってみる。
スッキリポイント
ベース
キックの重量感にカブっている100Hz付近を多めにカット。
キックのアタックを構築する4kHz、8kHzをカット。
ギター
750Hz付近をカット。
スネア
過激に埋もれているのでとりあえずカットせず。
ハッキリポイント
80Hzをブーストしてキックの重量感をアップ。
4kHz、8kHzをブーストしてボーカルとカブらない位置にキックのアタックを構築。
聴いてみる。
【処理前】
【処理後】
スッキリポイントを探すときは、キックが狙った位置(今回は一番下)から聴こえてくるようになるかに注意。
特にアタック成分のヌケを必要以上に良くすると位置関係が崩れる原因になる。
また、ハッキリポイントを探す際は、必ず全てのソースを再生しながら探すこと。
ブーストする場所がボーカルや他のソースの成分とぶつからないかを確認しながら作業を進める必要がある。
③ベースが聴こえにくくなった
ベースの場合、ポイントになるのはメインとなる低域部分と、芯・ラインを構成する中域部分。
キックとギターの間でメインの低域を鳴らしてやる感じにしてやるとまとまりやすい。
今回は以下のように処理。
スッキリポイント
キック
ベースの重量感とカブる250Hz付近をカット。
キックの重量感のメインを100Hz付近、ベースの重量感のメインを250Hz付近と、キックとベースのメインをずらしてやることで位置関係も明確になる。
ベースのライン成分とカブる1.2kHz付近をカット。
ギター
350Hz付近を若干カット。
ハッキリポイント
ベースの重量感のメインとして200Hz付近をブースト。
少しラインを出すために1.5kHz付近も軽くブースト。
聴いてみる。
【処理前】
【処理後】
メインの低域をキックとカブらない位置に作ってやり、補助的にラインとカリカリ成分でヌケを良くしてやるといいと思う。
ただし、カリカリ成分はギターやボーカル、シンバル類とぶつかるので、ベースをあまり主張させなくてもいい場合はガッツリめにカットしてしまったほうがいい結果になる場合が多い。
④スネアが聴こえにくくなった
今回のサンプルでは見事に聴こえなくなっているスネア。
歌モノバンドモノの場合、スネアはかなりの問題児。
ボーカルやギターと干渉が多く、激しめのロックなどになると全く聴き取れないレベルまで埋もれることも多い。
特にやっかいなのがボーカルとの干渉。
相手は主役。
スッキリポイントを見つけてカットポコポコ穴を開けるわけにもいかない。
ベースとギターなどのスッキリポイントをカットしてもなかなか抜けてこなかったら後はハッキリポイントしかない。
しっかりと抜けて、且つボーカルとの干渉が極力小さいポイントをブーストしてやる。
同時にスネアの聴こえてくる場所もしっかりとコントロールしてやる。
ただし、こういった処理はかなり音色の変化を伴う。
チューニングにも左右されるので、音色の変化がどうしても嫌だという場合は別の手を考える必要がある。
今回は以下のように処理。
スッキリポイント
ベース
500Hzあたりを多めにカット。
ホントはカットしたくなかったが、ここをカットするとボーカルもヌケてくる感じだったので割り切った。
ギター
120Hz付近を多めにカット。
ここは最初のハイパスで削ぎ落とした場所だが、さらにえぐり取ってやった。
2kHz付近もかなり効くが、ギターの音色の変化も大きいところなので少しだけカット。
ハッキリポイント
スネアの土台となる成分をボーカル直下あたりを狙ってブースト。
ボーカルとの干渉が多い2~4kHz付近を避けてスナッピー部分を補助的にブースト。
これだけブーストすれば当然レベルが膨らむのでGainを下げてやることになるが、Gainを下げたらスネアがまた聴こえなくなったという場合は失敗。
上手く干渉が回避できていればGainを下げてもスネアは埋まらない。
聴いてみる。
【処理前】
【処理後】
⑤ボーカルがオケに埋もれ気味
一応今回のメインディッシュ。
ボーカルは歌モノの場合「絶対的エース」なので「聴こえればいい」というわけにもいかない。
他のソース以上にどこの成分が埋もれているのかをきちんと把握して処理に臨んだほうがいい。
スッキリポイント
ボーカルが埋もれ気味と言っても埋もれている箇所はいろいろ。
全てが埋もれている場合もあれば、ボーカルを構成する成分の一部分だけが埋もれている場合もある。
低域部分が埋もれていれば声が痩せて聴こえるし、高域部分が埋もれていれば音像が下がって聴こえる。
どの部分が埋もれているのかをしっかりと把握して、ボーカルが狙いどおりに聴こえるように上手に居場所を確保してやりたい。
今回は以下のようにカット。
ドラム&ベース
カットしたポイントは130Hz付近、800Hz付近、4kHz付近の3箇所。
130Hz付近でボーカルの太さと男らしさを取り戻し、800Hz(ボーカルの芯)と4kHz(ボーカルのメイン、艶)付近で全体的な奥まりを解消させた・・・つもり。
ハッキリポイント
ボーカル側もちょっと補正。
200Hz付近をブーストして太さを補強。
3kHz、8kHzで艶っぽさの補正。
・・・と、ちょっと補正で500Hz付近をカットして篭りを解消した。
聴いてみる。
【処理前】
【処理後】
どうだろうか?
POPモノならもう少しボーカルを出してやってもいいと思うが、今回はうるさめのバンド系の曲なのでこの程度で。
最後にマスターにEQを挿して最終調整。
さんざん「EQは音の上下だ!」っと言っといてなんだが、筆者の場合この処理については聴いた感じの全体的なイメージの補正に頭を切り替えて・・・感覚で・・・何となく処理する(笑)
個人的には、
・低域楽器の出具合
・低音が溜まりやすい200Hz付近
・ウォーミーな成分が溜まりやすい500Hz付近
・派手さ、荒々しさが出る2~4kHz付近
・空間全体の高さの調整
あたりを微調整することが多い。
今回は以下のように処理。
【処理前】
【処理後】
まとめ
最後にEQ処理前と処理後を聴き比べ。
【処理前】
【処理後】
どうだろう?
ゴールに設定した上下の配置のように聴こえるようになっただろうか?
やってみるとわかるが、ボーカルの抜けを改善するスッキリポイントとハッキリポイントはQを広めにして捜索すれば結構わかりやすく存在する。
難しいのは絞り込みと削る量。
ジャンルや好みに合わせて優先順位を考えながら処理をしていくといいと思う。
っということでEQ編は今回でおしまい。
次回からはコンプレッサー編に入りたいと思う。
ではでは。