超初心者の為のミキシング講座/イコライザー編②【キックのEQポイント】

今回はキックのEQポイントを紹介。
キックは楽曲の土台を担う重要なパート。
EQで補正する場合には、それを意識したうえで補正してやることが重要。
また、同じく土台となるベースとの絡みが非常に重要になるパートでもある。

キックの周波数帯域別成分

今回は、何だかんだで所有しているユーザーが多いであろうNative Instrumentsの「Studio Drummer」のキックを使用してみた。
キットは「Session Kit – Full」。

付属のエフェクトは全てOFFで使用、マイキングは以下の通り(デフォルト)。

実際に聴いてみる。
※聴きやすいようにコンプレッサーだけかけさせてもらってます。
こいつの周波数成分をアナライザーで見てみると以下のような感じになっている。

低域に成分が集中しているが、中域の胴鳴りや高域のアタック、ビーター音など、低域以外にも音を構成する周波数成分が存在するのがわかると思う。

では次に、それぞれの帯域にどんな成分が含ませているのかを見てみる。

帯域別のEQポイント

キックの周波数成分を帯域別に見ていくと、おおよそ以下のような音で構成されてる。

20Hz~40Hz 音にならない圧力 「・・・ッ!」

この帯域を含めて60Hzあたりより下の帯域は超低域と呼ばれる帯域で、人間の耳では「音」として捉えにくい帯域。
そのくせレベルは大きく、音圧をかせぎたいときに邪魔になったりするのでハイパスでカットしてしまうのが一般的。
ただし、40~60Hzあたりは音にはなってなくてもキックから感じる迫力?圧力?を左右したりする部分でもあるので、どこからカットするかは慎重に見極めたい。
カットし始める周波数を左右に動かしながら、キックとしての美味しい部分を削ってしまわないギリギリのラインを探っていくといい。
また、ハイパスで低域をガッツリ削ってあえて重量感を感じない軽めのキックに仕上げることもできる。

40Hz~160Hz 重量感 「ズンッ!」

重量感を感じる帯域。
この帯域をコントロールすることで、重いキックにしたり、軽いキックにしたりすることが出来る。

200Hz~600Hz 厚み、温かみ、篭り 「ドッ!」

40~160Hzと同様に量感を感じる部分だが、上げ過ぎると篭った感じにもなる。
また、ベースやギター、ボーカルのオイシイ部分とカブる帯域でもあるので非常に扱いが難しい帯域。
200Hz付近は削ってベースに譲る。
300Hz付近は上げておく。
500Hzは付近はボーカルやギターは削るので上げておく。
といった具合に、他のパートとの兼ね合いを考えながらお互いが聴きやすい状態にしていかなければならない帯域。

600Hz~900Hz 胴鳴り、余韻 「ドォォォン」

この帯域には胴鳴りや余韻、空気感が含まれる。
鳴りを聴かせたい場合はここをブースト、逆にタイトに仕上げたい場合はカットするとスッキリする。

1kHz~5kHz ヘッドの震え 「バフゥン」

この帯域には、ドラムヘッド(皮)が振動する音が含まれている。
ここをブーストさせるとヘッドの響きが強調されてゆるい雰囲気に、カットするとタイトな雰囲気になる。
また、4kHz以降あたりになってくるとアタックの要素も混じってくる。

4kHz~6kHz アタック 「ベチッ!」

この帯域にはアタック感を司る「ベチッ!」っという固めの音が含まれる。
ここをブーストさせつつ胴鳴りやヘッドの震えをカットしていくと、ハードめのロックでよく聴くようなアタック感の強いキックになっていく。
また、キックは低域中心のパートだが、この帯域を上手に混ぜ合わせることでオケに埋もれないキックに仕上げることが出来る。

6kHz~10kHz ビーター音 「ビタン!」

アタックより少し高めのこの帯域にはビーターが皮に当たる「バチッ!」「ビタン!」という音が含まれる。
この音をアタック音にどのくらい混ぜ合わせるかでアタック感を調整することができる。

・・・ま、擬音は参考程度に(笑)。
それから、数値は素材によって多少前後する。
Qを狭め(Waves Q10なら10程度)に設定して10dBほどブーストさせながらFreqを左右に動かして上記のポイントを探ってみてほしい。
素材によっては上のような構成になっていない場合もあるが、生ドラムのキックであればそこまで大きな違いはないと思う。
このあたりのポイントを中心にEQでブースト/カットしてやることで音色を補正、かつオケの中でしっかり聴こえる状態にしてやる。

具体例

では、具体例をいくつか紹介したいと思う。

不要な部分のカット

まず最初に、ソースを聴いたときに「ん?なんかいらない音が入ってるな」と感じた場合の処理例。
手順としては、

1.ピーキングでQを狭め(Waves Q10なら10程度)に設定。
2.10dBほどブーストさせながらFreqを左右に動かして不要と思われる音を探る。
3.見つけたら適量をカット。

筆者の場合、いらないと感じたのは1kHz辺りにあるヘッドの音。
もともとヘッドの鳴りが強めの素材でもあるので、該当の箇所をピーキングで8dBほどカットしてみた。

※1小節(4拍)ごとにEQ処理なし、EQ処理ありが交互に再生されます。

ある音がなくなっているのがわかると思う。
ただ、この音を筆者と同じように「いらない」と思う人もいれば、「絶対にほしい」と思う人もいる。
さらに、どのくらいカットするかも人によって違うし、ほかのトラックと一緒に聴いてみたら「やっぱりほしい」と思ってもとに戻すかもしれない(笑)。
正解というものは無いので間違いもない。
ちなみにこの後の例については、事前にこの部分をカットしてある。

タイトなキックに仕上げる

※1小節(4拍)ごとにEQ処理なし、EQ処理ありが交互に再生されます。

同じくハイパスで超低域をカット、500Hz、1kHzあたりを広めのQでカットして引き締める。
さらに4kHz、8kHzあたりを混ぜながら持ち上げてアタック感を強調。
中域がなくなった分少し軽さを感じたので120Hzあたりを若干ブースト。

やわらかいキックに仕上げる

※1小節(4拍)ごとにEQ処理なし、EQ処理ありが交互に再生されます。

ハイパスで超低域をカット、ピーキングで120kHzあたりをブーストして量感を追加。
アタック部分が含まれる3kHz以上をローパスで思いきってカットしてアタック感を無くす。

余韻を強調したキック

※1小節(4拍)ごとにEQ処理なし、EQ処理ありが交互に再生されます。

同じくハイパスで超低域をカット、ピーキングで700Hz、1.8kHzあたりをブーストして鳴りとヘッドの振動感を強調。
アタックとビーター音をカットしてアタック感を和らげる。

まとめ

どうだろう?
今回はWavesのQ10を使ってEQ処理をしてみたが、一つだけ言えることは・・・Qは10もいらなかったということだろう(笑)。
メインとなるポイントは重量感アタック
これらを固めたあとに鳴りや余韻を調整していくと追い込みやすいと思う。
アタックに関しては、アタック音にどのくらいビーター音を混ぜるかで好みの音に仕上げていくといいと思う。
また、ここまで説明しておいて何だが、ソロで音をガチガチに追い込んだとしてもオケに混ぜてみると全く別の聴こえ方になる(笑)。
結局他のトラックを考慮して微調整をしてやるわけだが、ポイントになる場所は今回紹介した場所とほぼほぼ変わらないのでどの帯域に何の成分が含まれているかは押さえておいて損はないと思う。
また、他のトラックと重ねた時のEQポイントについてはベースのEQポイントを紹介した後にまとめて紹介する。

ということで、次回はベースのEQポイントを紹介したいと思う。

ではでは。

Chanomaオススメのミキシングアイテム

Universal Audio APOLLO TWIN

Universal Audioは1176や610などの名機と呼ばれるアウトボードを生み出しているアメリカの老舗プロフェッショナルオーディオ機器ブランド。 Apollo Twin は同社のハイクオリティDSPプラグイン「UAD-2」が利用できるDSPチップを搭載したコンパクトオーディオインターフェース。 「往年のアナログ機器のサウンドをプラグインで再現」というコンセプトのもとに開発されるUAD-2は、NEVE 1073、610、APIやSSL、1176、LA-2A、Pultec EQなど数々の名機をプラグイン化しており、その技術は世界中で非常に高い評価を得ている。 プロの定番プラグインであるWavesを始め、様々なブランドが名機のエミュレートプラグインをリリースしているが、ビンテージ機材のエミュレーション技術においては間違いなくUniversal Audioが群を抜いている。 最近ではMarshallやFender、Ampegのアンプシミュレーターなどもリリースしており、ギタリストやベーシストにもオススメ。 手にしたその日からワンランク上のレコーディング、ミキシング環境が手に入る。

Waves Plugin

プラグインエフェクトと言えば「Waves」。 多くのプロも使用しているハイクオリティエフェクト。 ありきたりな選択肢だが、やはり良いものは良い。 余計な音質の変化はないし、余計な味つけもされないし、エフェクトのかかり具合も良く、使い勝手も良く、狙った効果がきちんと得られる。 CPU負荷も比較的軽めなうえ、動作も安定しているので安心して使用できる点もGood。 一昔前に比べてかなり安く手に入るようになってきているので、コスパ面でもオススメ出来る。 Silver、Gold、Platinumをはじめ多数のバンドルがラインナップされており、目的やレベルに応じて様々な選択肢をチョイスできるのも嬉しい。

audio-technica ATH-M70x

海外で人気のMシリーズのフラッグシップモデル。 決して周波数特性がフラットという機種ではないが、こいつの中高域の情報量は驚異的。 空間表現能力も驚異的でゴチャゴチャしている部分が丸見え。 他のヘッドホンで聴こえなかった音が面白いくらい見つかる。 くっついてしまったり、隠れてしまっている音もこいつなら一つ一つしっかりと確認できる。 但し、中高域が耳に張り付いてくるタイプなので、低域のモニタリングは慣れが必要? 「低域もある程度見える超高解像度版900ST」といった感じ。

YAMAHA MSP5 STUDIO

銘機「NS10M STUDIO」を開発したチームによるニアフィールドモニター「MSP STUDIO」シリーズの一番小さいサイズ。 フラットさに定評があり、モニタスピーカーとして各方面での評価も高い。 音質も非常にクリアで音像や定位もしっかりと捉えることができる。 とにかく飾り気のない素直な出音が特徴。 コスパはかなり高い。