超初心者のためのミキシング講座 / イコライザー編①

さて、今回からいよいよエフェクト編に突入。
最初はイコライザー

イコライザーの使用目的

イコライザー(EQ)は音の周波数特性の調整を行うためのエフェクトである。
特定の周波数帯域のレベルをブーストしたり逆にカットするといったことができる。
積極的な音作り目的で使用される場合も多いが、ミキシングでは主に周波数特性の補正目的で使用する。
具体的には、

・レコーディングによる周波数特性の変化の補正。
・各トラックや楽曲全体の周波数成分の補正(音の上下の補正)。

といった感じ。

レコーディングによる周波数特性の変化の補正

レコーディングを経験したことのある方ならわかると思うが、マイクをオーディオインターフェースに繋いで特別なんの処理もせずにレコーディングした音というものは、耳で直接聴く音とはかけ離れている場合がほとんどである。
これは、マイクやマイクプリなどの録音機器の特性と人間の耳の特性の違いによって引き起こされる現象。(空気感や距離感の話はとりあえず置いておく。)
人間の耳とマイクなどの機械の構造は全くの別モノ。
拾い上げる音の周波数特性も別モノになって当然なわけだ。


人間の耳とマイクでは拾う音の特性が全く違う。

故に、

「生で聴いた声に比べてなんだかこもって聴こえる。」
「生で聴いた声に比べてなんだかペラッペラ。」

など、直接耳で聴いた感じとちょっと違うという現象が起きる。
そこで、EQを使用して生で聴いた音に近づくように周波数特性を補正してやるという処理をしてやる。
まあ、これはミキシングの中でもどちらかと言えば「音作り」に近いEQの使い方とも言える。


EQで周波数特性を補正してやる。

各トラックの周波数分布の補正

こちらは各トラックの周波数特性をコントロールすることで音の上下の配置を整理してやるという処理。
実際ところは前述のレコーディングによる周波数特性の変化の補正と同時に処理してしまう場合も多いのだが、あくまで目的は別ということを覚えておいたほうがいい。
LevelとPanの調整を行ってみたものの、音の上下の配置がごちゃごちゃしていて各パートの音がはっきり聴こえない時や、考えていた配置と異なるという場合にこの処理をしてやる。
前々回の「予備知識編」の「音の上下」の項目で出てきたイコライジングがこれである。
このような目的でEQを使用する場合は、

楽曲全体や他のパートとのバランスを考慮して相対的にイコライジングをしなければならない。

ということが重要になる。
音作り目的であればターゲットになるソースが思った通りにイコライジング出来ればそれでOKなのだが、上下の整理をする処理をする場合は他のトラックと同時に聴いた時にどうかという具合にあくまで相対的にイコライジングをする必要があるわけだ。

また、昔から、

「EQはカットする方向で使うのがセオリー」

と言われているが、これは絶対にブーストしてはいけないということでははない。
そもそもブースト側にもノブが回るようになってるんだし。
それにNEVEの1073パルテックEQのようにブーストしてナンボという名機もたくさんある。


PultecEQはブーストとアッテネーションの合わせ技が有名。

頑なにブーストすることを禁じて思い通りにならないより、ブーストして思い通りになるならそれでいい。

・・・が。

実際にやってみるとわかるが、ブースト方向ばかりにイコライジングしていると、あっという間にトラックのレベルが0dBを超える
また、ブーストするということはレベルが上昇するということ。
当然ブーストした部分が目立つように聴こえる。

「おお!ブーストしたらこのトラックがはっきり聴こえるようになった!なんだよ!EQ簡単じゃん!!」

と思いがちだが、実は単にレベルが上昇しただけで周波数特性が整理されたことによるものではない場合も多い。
EQのアウトプットを下げてみて、元のように他のトラックに埋もれてしまった場合は単なるレベルの上昇による効果だった事になるので試してみてほしい。
そんなこともあり、この目的の場合は極力カットの方向で使ったほうがいいと言えるだろう。
例えば、AとBの音がくっついて聴こえてしまっている場合、Aの200Hzをブーストして目立たせるのではなく、Bの200Hz付近をカットすることで相対的にAの200Hz付近を目立たせるといった感じだ。

イコライザーのパラメータ

EQにはグラフィックEQとパラメトリックEQ等いくつかの種類があるが、初心者の方はWavesのRENAISSANCE EQQ10のようなパラグラフィックEQというタイプのEQが使いやすいのではないかと思う。


WavesのQ10。

主要なDAWにあらかじめバンドルされているEQもほとんどがこのタイプだ。
パラグラフィックEQは、比較的細かいEQ処理が可能なうえ視覚的にEQ処理が出来るので非常に扱いやすいEQ。
また、最近では音の周波数成分が丸見えのスペクトラムアナライザーという機能を搭載したEQも増えており、より視覚的にEQ処理が出来るようにもなってきている。


WavesのH-EQ。

では、EQの基本的なパラメータを見ていく。
パラグラフィックタイプのEQであればパラメータはほぼほぼ一緒である。

Freq(frequency)

ブースト/カットする周波数帯域を設定するパラメータ。
ここで設定した周波数を中心にブースト/カットされる。

Q

ブースト/カットが影響を及ぼす範囲を設定するパラメータ。
値が小さいほど広範囲に、値が大きいほど狭い範囲に影響を与える。

Gain

ブースト/カットする量を設定するパラメータ。

Type

Freで設定した周波数帯域をどのようにブースト/カットするかを設定するパラメータ。
ハイシェルフ、ローシェルフ、ハイパス、ローパス、ベルカーブなどの種類があり、それぞれ以下のような方法でブースト/カットする。

ハイシェルフ/ローシェルフ

Frepで設定した周波数以降の帯域全体をブースト/カットするために使用する。
ハイパス/ローパス

Frepで設定した周波数以降の帯域をバッサリカットするために使用する。
ベルカーブ(ピーキング)

特定の周波数帯域付近をピンポイントでブースト/カットするために使用する。

ミキシングで比較的出番が多いのは、「ハイパス」、「ハイシェルフ」、「ベルカーブ」の3つだろう。
また、機種によって周波数帯域をブースト/カットできる箇所(バンド)の数に違いがあり、R-EQは6カ所Q10の場合は名前の通り最大で10カ所のブースト/カットが可能。
当然バンド数が多ければ多いほどひとつのEQで多くのEQ処理が出来るということになる。
・・・が、多ければ良いというわけでもない。
いじれる数が限られていた方が余計なことをしなくて済む場合もある(笑)。

EQのを使うときのポイント

では、EQを使う際のポイントを紹介する。

シェルビング

特定の周波数以降の帯域全体に変化を与えるシェルビングは、主に以下のような目的で使用されることが多い。

素材の大まかな音質補正

素材の高域、または低域全体をブースト/カットすることで素材の聴こえ方を全体的に補正することができる。
例えばボーカルをもっとクリアで透き通った感じにしたいという場合は、ハイシェルフで高域全体を持ち上げてやる。


ハイシェルフで高域全体をブースト。

超低域、超高域のカット

人間の可聴周波数帯域は20Hz~20kHzと言われており、デジタルレコーディングでもこの範囲の周波数帯域が記録される。
しかし、実際には20~60Hz、16~20Hzあたりの超低域や超高域は、人間にはあまり聴き取れない周波数帯域だったりする。

「聴こえないなら別にほっといても良いじゃん」

と言いたくなるが、人間には聴こえなくても機械には聴こえている。
例えば20~60Hzの範囲に可聴範囲よりレベルの大きい成分が含まれていたとすると、可聴範囲に合わせた適切なレベルコントロールが難しくなったりする。
また、コンプレッサーなどを使う際も、スレッショルドに超低域が引っかかってしまい可聴範囲のゲインリダクションを把握するのに邪魔になったりする。
そこで、この超低域と超高域をハイパスやローパスを使ってバッサリカットしてやる。


ローカットで超低域を思いっきりカット。

特に超低域はレベルが大きいことが多いので必ず処理しておいた方がいい。

各ソースの周波数帯域の住み分け

同じくハイパスとローパスを使った処理。
例えば、キックの最低域を60Hz付近に設定してハイパスで60Hz以下をバッサリカット。
次にベースの最低域を90Hzほどに設定してハイパスで90Hz以下をバッサリカット。
同じようにギターは120Hz位からカット、ボーカルは170Hz位からカット・・・。
こんな感じで各ソースの最低域に若干差をつけて重ねていくと、各帯域にメインで存在するパートが明確になり、音の上下を整理することが出来る。


こんな感じで各ソースの最低域に差を付けて重ねてやる。

上の数値については何となくこのくらいでしょ?って感じで書いただけなので参考までに。
ポイントとしては、キックと主役のボーカルは音の変化を感じないギリギリのラインを探る、ベースとギターは単体での響きを考えだすとなかなかカット出来ないので、全体のバランスを考えてある程度割り切ってカットするといった感じ。
ベースの最低域をどうしても低めにしたいという場合はキックとベースの最低域を逆にするという手もある。
この辺はジャンルにもよる。
この処理をやっておくだけでもかなり整理された聴こえ方になる。

ピーキング

一部分の帯域のみに影響を与えることができるピーキングは以下のような目的で使用される。

素材の細かな音質補正

楽器の音や人間の声は、様々な周波数の音が集合して構築されている。
キックで言えば重量感、胴鳴り、アタック、ビーターが皮にあたる音。
ボーカルで言えば太さ、艶、歯擦音、空気感などなど。
ピーキングで特定の周波数帯域をブースト/カットすることで、ソースのオイシイ部分や不要な部分を強調したり目立たなくしたりすることが出来る。

各ソースの周波数帯域の細かな住み分け

前項でハイパスとローパスを使った簡単な住み分けを紹介したが、この方法が使えるのはソースの最低域と最高域のみ。
その間の部分には手が届かない。
そこでピーキングで各ソースのあらゆるポイントの出し引きを行い、各ソースがバランスよくしっかりと聴こえるように処理をしてやる。
・・・ま、これが難しい。

今回はここまで。
次回からソース別のEQのポイントをより具体的に紹介していきたいと思う。

ではでは。

Chanomaオススメのミキシングアイテム

Universal Audio APOLLO TWIN

Universal Audioは1176や610などの名機と呼ばれるアウトボードを生み出しているアメリカの老舗プロフェッショナルオーディオ機器ブランド。 Apollo Twin は同社のハイクオリティDSPプラグイン「UAD-2」が利用できるDSPチップを搭載したコンパクトオーディオインターフェース。 「往年のアナログ機器のサウンドをプラグインで再現」というコンセプトのもとに開発されるUAD-2は、NEVE 1073、610、APIやSSL、1176、LA-2A、Pultec EQなど数々の名機をプラグイン化しており、その技術は世界中で非常に高い評価を得ている。 プロの定番プラグインであるWavesを始め、様々なブランドが名機のエミュレートプラグインをリリースしているが、ビンテージ機材のエミュレーション技術においては間違いなくUniversal Audioが群を抜いている。 最近ではMarshallやFender、Ampegのアンプシミュレーターなどもリリースしており、ギタリストやベーシストにもオススメ。 手にしたその日からワンランク上のレコーディング、ミキシング環境が手に入る。

Waves Plugin

プラグインエフェクトと言えば「Waves」。 多くのプロも使用しているハイクオリティエフェクト。 ありきたりな選択肢だが、やはり良いものは良い。 余計な音質の変化はないし、余計な味つけもされないし、エフェクトのかかり具合も良く、使い勝手も良く、狙った効果がきちんと得られる。 CPU負荷も比較的軽めなうえ、動作も安定しているので安心して使用できる点もGood。 一昔前に比べてかなり安く手に入るようになってきているので、コスパ面でもオススメ出来る。 Silver、Gold、Platinumをはじめ多数のバンドルがラインナップされており、目的やレベルに応じて様々な選択肢をチョイスできるのも嬉しい。

audio-technica ATH-M70x

海外で人気のMシリーズのフラッグシップモデル。 決して周波数特性がフラットという機種ではないが、こいつの中高域の情報量は驚異的。 空間表現能力も驚異的でゴチャゴチャしている部分が丸見え。 他のヘッドホンで聴こえなかった音が面白いくらい見つかる。 くっついてしまったり、隠れてしまっている音もこいつなら一つ一つしっかりと確認できる。 但し、中高域が耳に張り付いてくるタイプなので、低域のモニタリングは慣れが必要? 「低域もある程度見える超高解像度版900ST」といった感じ。

YAMAHA MSP5 STUDIO

銘機「NS10M STUDIO」を開発したチームによるニアフィールドモニター「MSP STUDIO」シリーズの一番小さいサイズ。 フラットさに定評があり、モニタスピーカーとして各方面での評価も高い。 音質も非常にクリアで音像や定位もしっかりと捉えることができる。 とにかく飾り気のない素直な出音が特徴。 コスパはかなり高い。