超初心者のためのミキシング講座/リバーブ編②【残響のコントロール】

超初心者のためのミキシング講座/リバーブ編②【残響のコントロール】

どもども。

今回は残響の具体的なコントロール方法についてうんちくってみようと思う。
最初に言っておくが今回の内容はいつも以上にめんどくさい話になる。
ねちっこい話が嫌いな人は今すぐ最後の『まとめ』にワープしてしまうことをオススメする。

プリディレイと残響時間

さて、前回うんちくったとおり残響の正体は無数の反射音の集合体である。
残響を構成する反射音は、反射回数に比例して音圧レベルの減衰量と耳に届くまでの時間が大きく(遅く)なっていくので、一般的な六面体の空間であれば下図のように直角三角形のような形を形成することになる。


この直角三角形と直接音までの距離、すなわち直接音が聴こえた後、残響が鳴り始めるまでの時間のことをプリディレイ(pre delay)という。
また、直接音から直角三角形の右端までの距離、すなわち直接音が聴こえた後、残響が聴こえなくなるまでの時間のことを残響時間(reverb time)という。

残響時間は、厳密に言うと『空間に存在する反射音の音圧レベルが直接音に対して60dB減衰するまでに要する時間』のことなのだが、ミキシングをするうえではシンプルに残響の持続時間のことだと思っておいたほうがわかりやすいと思う。
この2つは残響をコントロールするうえで非常に重要になってくるので、その意味をしっかりと覚えてしまってほしい。

初期反射音と後部残響音

反射音の集合体が形成する直角三角形は、物体による反射の回数によって以下の2つに分けられる。

初期反射音(early reflection)・・・物体による反射回数が1回のみの反射音
後部残響音(late reverberation)・・・物体による反射回数が2回以上の反射音の集合体(単に残響音と呼ばれる場合もある)


初期反射音は、一般的な六面体の空間であれば壁4面、天井、床に反射した6つの反射音ということになるが、空間内の物体が増えればそれ以上に発生することになる。
そのいくつかは、直接音が聴こえてからほんの数ms後に耳に届くため、聴いた感じでは直接音とくっついてひとつの音として聴こえると言われている。
また、反射回数が少ないため、直接音に対する音量差や音質の変化が比較的小さい状態で耳に届くという特徴がある。
対して後部残響音は、普段我々がまさしく『響き』や『余韻』残響として認識している部分。
構成する反射音は反射回数に比例して、直接音に対する音量差や音質の変化が大きくなる。
まあ当然、これらはただの呼び名であり、実際に残響を聴いたときにこれらがくっきり分かれて聴こえるわけではないので、無理に分けて考える必要はない。
しかし、最近は初期反射音と後部残響音を別々にコントロールできる高機能なリバーブも数多く存在するので、そんなヤツに出くわしたときのためにも、言葉の意味だけは頭の片隅に置いておくことをオススメする。
また、リバーブによっては前述のプリディレイが直接音が聴こえた後、後部残響音が鳴り始めるまでの時間を指すものも存在するので、自分の使うリバーブがどんな仕様なのかは調べておいたほうがいいと思う。
ちなみに今回は、特別記載がない場合は直接音が聴こえた後、初期反射音が鳴り始めるまでの時間をプリディレイと呼ばせてもらう。

残響の聴こえ方を決める要素

さて、ここからが本題。
前回うんちくった通り、人間ってのは残響の聴こえ方で空間の広さや音源までの距離を想像する。
そこで、ミキシングでは残響がどのように聴こえるかをコントロールすることで、表現したい空間の広さや音源までの距離をコントロールするわけだ。
では、残響がどのように聴こえるかをコントロールするためには具体的に残響の何を変化させればいいのか?
3つある。

音量 : 直接音に対して残響がどのくらいの音量で聴こえるか
時間 : 直接音に対して残響がどんなタイミングで聴こえるか
音色 : 直接音に対して残響がどんな音色で聴こえるか

この3つによって残響の聴こえ方が決まる。
ちなみに、ここでいう音色とは、直接音の周波数特性に対して残響(反射音)の周波数特性がどのように変化するかということ。
現実の空間において、反射音は空気中を移動したり壁などの物体に反射したりする過程で必ず周波数特性が変化する。
これは、周波数帯域によって音圧レベルの減衰量に違いがあるためで、例えば80Hzの低音と16kHzの高音では同じ壁で反射した際の音圧レベルの減衰量が違ってくる。
また、空間の壁や天井、床の材質によっても周波数帯域ごとの減衰量に違いが出る。
逆に言えば、反射音の周波数特性をうまくコントロールしてやれば、空間の壁や天井の材質を再現できるということになるわけだが、ミキシングでは現実世界における周波数特性の変化をリアルに再現するのではなく、楽曲をより聴きやすくするためのちょっとしたテクニックとして使用することをオススメする。
これについては実践編で詳しくお伝えしようと思うので、ここではこの『音色』という要素は除外させてもらうことにする。

ということで、残ったのは『音量』と『時間』。
残響がどのように聴こえるかをコントロールする要素はこの2つになる。

「なるほど。でも残響って無数の反射音の集合体なんだろ?・・・ってことは・・・残響を構成する全ての反射音の音量と時間を調整しなきゃならんのか?」

と思った人もいるかもしれないが安心してほしい。
リバーブ様は、代表選手として一番最初に耳に届く反射音と一番最後に耳に届く反射音の音量と時間を決定してやれば、間の無数の反射音がどのように減衰していくかを自動でシミュレートしてくれる。
つまり、実際にコントロールするのは『一番最初に耳に届く反射音の音量とタイミング』、そして『一番最後に届く反射音の音量とタイミング』だけでいい。


つまりは、
①一番最初に耳に届く反射音の音量
②プリディレイ
③残響時間

この3つをコントロールしてやればいいということだ。


残響を初期反射音と後部残響音に分ける場合も、基本的に考え方は一緒。
一番最初に耳に届く初期反射音の音量とプリディレイ、そして残響時間を決めてやれば、その他は基本的にリバーブ様がシミュレートしてくれる。

ただし、プリディレイが後部残響音までの距離を設定するタイプの場合は、以下のようになるので注意。

この場合は、初期反射音の音量とタイミングを設定するパラメータが別途用意されているはずなので確認してみてほしい。
ちなみに、こういったタイプのリバーブは初期反射音と後部残響の音量と耳に届くタイミングを別々にコントロールできるわけだが、ミキシング初心者の人はこの機能には手を出さないことをオススメする。
一般的なリバーブの場合、Room typeというパラメータでプリセットを読み込んだ段階でこの2つのバランスが最適な状態でシミュレートしてくれている。
我々素人が下手に手を出すと、最適だったバランスがどんどん崩れていってしまうのだ。
よっぽど凝った残響を作り上げる場合を除けば、①~③をコントロールするだけで空間の広さや音源までの距離は十分にコントロールできるので、意図的にバランスを崩したい時以外は手を出さない方がいいと思う。

空間の大きさのコントロール

ということで、一番最初に耳に届く反射音の音量、プリディレイ、残響時間、この3つの要素をコントロールすれば『空間のサイズ』と『音源の位置(奥行き)』をコントロールすることができるわけだが、現実の世界では空間の広さが変化することでこれらの要素はどのように変化するのか?
ここからの内容はさらにめんどくさい話になるので、もう勘弁してくれという人は最後の『まとめ』に飛んでほしい。
ではでは。

例えば以下のような幅10m×奥行10mの空間で娘が筆者に向かって「パパ、都こんぶのにおいがする」と言い放ったとする。
この空間はこの後何度か出てくるので空間Aという名前を付けさせてもらう。
空間A=10m×10mの空間だ。
OK?


ちょいと計算が必要になるので、娘と筆者を点で表示させてもらう。

前回うんちくった通り、娘が言い放った「パパ、都こんぶのにおいがする」は以下の図のように拡散、反射する。

この矢印を直接音、先程説明した初期反射音と後期残響音で色分けしてみる。

こんな感じ。
まず最初に直接音と初期反射音が筆者の耳に届くまでの時間を計算してみる。

娘と筆者までの直線距離は10m。
中学生の時に習った1:1:√2を使って計算すると、直接音と初期反射音が空中を進む距離は、

直接音:10m
初期反射音:14.14m

となる。
音が空気中を移動する速度は1秒間で約340m。
したがって、直接音と初期反射音が筆者の耳に届くまでの時間は、

直接音:0.0294秒
初期反射音:0.0415秒

故に、初期反射音は直接音よりも0.0121秒(0.0415-0.0294)遅れて聴こえることになる。

次に、どのくらいの大きさで聴こえるかを計算してみる。
・・・合っているのかはよくわからないが今回は音圧レベル(dB)というもので考えてみる。
大丈夫。
音圧レベルが大きいほうが間違いなく大きく聴こえるし、小さいほうが間違いなく小さく聴こえる。
この事実さえあれば説明はできる。

さて、
音圧レベルの測定地点と減衰量の関係はおおよそ以下のような感じになっている。


これを基に、仮に直接音の音圧レベルを100dBとして初期反射音が筆者の耳に届いたときの音圧レベルを計算すると、(壁に反射する際に失う音圧レベルは無視)

初期反射音:96.99dB

となる。
故に、初期反射音は直接音よりも3.01dB(100dB-96..99dB)音圧レベルが小さくなるということがわかる。(実際には壁や天井にぶつかるたびに音圧レベルが吸収されるので、もっと小さい音圧レベルになる)


さて、ここからが本題。
では、空間の大きさが幅20m×奥行20mだった場合、これらの数値はどのようになるのか?

こいつには空間Bという名前を付けてやる。
空間Aの時と同様に娘が空間の一番端にいるとすると、筆者までの距離は倍の20m。
先程と同じ方法で直接音、初期反射音が空中を進む距離を計算すると、

直接音:20m
初期反射音:28.28m

直接音、初期反射音が筆者の耳に届くまでの時間は、

直接音:0.0588秒
初期反射音:0.0831秒

となる。
故に、初期反射音は、直接音に対して0.0243秒(0.0831-0.0588)遅れて聴こえることになる。


この数値を空間Aの時の数値と比べてみると、

【空間Aでの直接音に対する遅れ】
0.0121秒

【空間Bでの直接音に対する遅れ】
0.0243秒

このことから、空間の広さが大きくなると、直接音に対する初期反射音の聴こえるタイミングは遅くなっていくということがわかる。
つまり、プリディレイを遅くすればするほどリスナーにより大きな空間を想像させることができるということだ。

では、音圧レベルはどうか?
先程の関係図を基に、空間Bでの直接音と初期反射音が筆者の耳に届いたときの音圧レベルを計算すると、

直接音:93.97dB
初期反射音:90.96dB

つまり、直接音に対して初期反射音は3.01dB(93.97-90.96)音圧レベルが小さくなる。


この数値を空間Aの時の数値と比べてみると、

【空間A】
3.01dB

【空間B】
3.01dB

まったく同じという結果になる。
つまり、空間の広さが大きくなっても、直接音と初期反射音の音圧レベルの比率は変わらないということだ。
あくまでこれは音の大ききの比率の話だが、直接音に対する初期反射音の音圧レベルの減衰量というものは空間の広さとはあまり関係がないということになる。
ただしこれは、空間の大きさの変化に比例して音源(娘)の位置が変化した場合に限った話なので注意。

では次に残響時間の変化を考えてみる。
某サイトによると残響時間の計算式は、

残響時間=0.161×空間の容量÷空間の表面積×吸音率

天井の高さを空間Aは10m、空間Bは20mとし、吸音率を1.0として計算してみる。
まず、空間Aにおける残響時間は、

0.161×1000÷(100×6)=0.268

空間Bにおける残響時間は、

0.161×8000÷(400×6)=0.536

この結果から、空間の広さが大きくなると残響時間が長くなるということがわかる。

軽くまとめるとこうだ。
空間の広さが大きくなり、音源の位置も比例して奥に移動した場合、

・直接音と初期反射音の音圧レベルの比率は変わらない
・プリディレイは遅くなる
・残響時間は長くなる

よって、ある残響から想像する空間のサイズをより大きくしたい場合、

・プリディレイをより遅くする
・残響時間をより長くする

逆に、より小さくしたい場合は、

・プリディレイをより速くする
・残響時間をより短くする

これでイケということになる。
ただしこの場合、音源の位置も想像する空間の大きさに比例して前後することになる

音源の前後の位置のコントロール

さて、お次は音源の前後の位置のコントロールについて。
空間における音源の位置が変化した場合、前述の①、②、③はどのように変化するのか?
例えば、先ほどの空間Bの中央に娘がいた場合を考えてみる。


娘と筆者までの距離は半分の10m。
空間Aにおけるそれと一緒だ。
この場合、直接音と初期反射音が空中を進む距離を懐かしの『ピタゴラスの定理』を使って計算すると、

直接音:10m
初期反射音:22.36m

となる。
先程と同じ方法で直接音と初期反射音が筆者の耳に届くまでの時間は、

直接音:0.0294秒
初期反射音:0.0657秒

故に、初期反射音は、直接音に対して0.0363秒(0.0657-0.0294)遅れて聴こえることになる。


この数字を壁際に娘がいた場合の数字と比較すると、
【娘が壁際にいた場合】
0.0243秒

【娘が中央にいた場合】
0.0363秒

このことから、同一空間内で音源が前に移動した場合、直接音に対する初期反射音の聴こえるタイミングは遅くなるということがわかる。

次に音圧レベルを計算してみる。
例のごとく音圧レベルの測定地点と減衰量の関係図を基に計算すると、初期反射音が筆者の耳に届いたときの音圧レベルは、

初期反射音:93.01dB

となる。
故に、初期反射音は直接音と比べて6.99dB(100dB-93.01dB)音圧レベルが小さくなるということがわかる。(実際には壁や天井にぶつかるたびに音圧レベルが失われるので、初期反射音と後期残響はもっと小さい音圧レベルになる)


この数字を壁際に娘がいた場合の数値と比較してみると、
【壁際の場合】
直接音と初期反射音の音圧レベルの差:3.01dB

【中央の場合】
直接音と初期反射音の音圧レベルの差:6.99dB

娘が中央にいた場合の方が音圧レベルの差が大きくなることがわかる。
このことから、同一空間内で音源の位置が前に移動した場合、直接音に対する初期反射音の音圧レベル差は大きくなっていくということがわかる。

では次に残響時間の変化を考えてみる。
先程使った残響時間を求める公式は、

残響時間=0.161×空間の容量÷空間の表面積×吸音率

・・・そう。
この式には娘までの距離を代入する場所がない。
つまり、音源までの距離と残響時間は関係がないということだ。(実際には多少ある気はするが・・・)
このことから、同一空間内で音源の位置が前後に移動しても残響時間は変化しないということがわかる。

軽くまとめるとこうだ。
ある空間において、音源の位置が前に移動した場合、

・直接音と初期反射音の音量差は大きくなる。
・プリディレイは遅くなる
・残響時間は変わらない。

こんな感じになる。
よって、ある残響から想像する音源の位置をより前に移動させたい場合、

・直接音と初期反射音の音量差を大きくする
・プリディレイをより遅くする

逆に、より後ろに移動させたい場合は、

・直接音と初期反射音の音量差を小さくする
・プリディレイをより速くする

これでイケるということになる。

まとめ

お疲れ様でございます。
では最後に、ここまでの内容をまとめてみる。

残響というものは、

①最初に耳に届く反射音の音量
②プリディレイ
③残響時間

の3つでコントロールできる。

具体的には、

空間をより大きくしたい場合
・プリディレイをより遅める
・残響時間をより長くする
空間をより小さくしたい場合
・プリディレイをより速める
・残響時間をより短くする
空間内での音源の位置を前に出したい場合
・直接音と初期反射音の音量差を大きくする
・プリディレイをより遅くする
空間内での音源の位置を奥に引っ込めたい場合
・直接音と初期反射音の音量差を小さくする
・プリディレイをより速くする

こんな感じになる。

今回はここまで。
次回はリバーブに搭載されているパラメータとその使い方をうんちくってみる。

ではでは。