超初心者のためのミキシング講座 / イコライザー編⑩【アコースティックギターのEQポイント】

今回はアコースティックギター(スチール弦)のEQポイントを紹介。
エレキギターと似た周波数特性ではあるものの、アンプ等を通さない「ザ・生楽器」なので(エレアコを除く)ボディの鳴りや空気感を感じる成分がより多く含まれている。
また、弾き語り等のように楽曲のオケを一人で担ったりもする楽器なので、用途によってEQ処理も変わってくる。

アコースティックギターの周波数帯域別成分

今回は、VIR2の「ACOU6TICS」を使用して、指弾きのアルペジオとストラムの2種類のサンプルを用意した。

指弾きのアルペジオ
ストラム
今回はこの2つのサンプルを例にしてEQ処理をしてみる。

【20Hz~80Hz】 超低域

他のソース同様、人間の耳が音として捉えにくい超低域と呼ばれる帯域。
低域メインのパートとの住み分けを考えてハイパスでカットしてしまったほうがいい。
ギターのみの楽曲や弾き語り等、主役級に目立たせる場合も60Hz以下はカットしてしまって問題ないと思う。

【80Hz~150Hz】 重量感

重量感を担う帯域。
主に6弦(一番太い弦)の重みを担う帯域で、ブーストしてやると重みが増し、カットしてやると軽い感じの音になる。
弾き語りなどの場合はベースの代わりを務める帯域になるので、過度にカットしない方がバランスが取れる。
POPなどの必要以上にギターを目立たせる必要がない楽曲の場合は、低域のメインはベースに任せて100〜150Hzあたりくらいまで超低域と一緒にハイパスでカットしてしまってもいいと思う。

【200Hz~600Hz】 太さ、鳴り、温かみ

200〜300Hzあたりにボディの鳴り、300〜500Hzあたりに太さ、温かみを感じる成分があると思う。
ボディの鳴りはエレキギターよりも豊かなので、用途に応じて出し引きしてやるといい。
また、ストラム奏法時はこの帯域が明瞭さの低下や篭りの原因になったりするので、モンモン感、モコモコ感が気になる時は適度にピーキングでカットしてやるとスッキリする。
ブーストすると5~6弦あたりの音が強調される。

【700Hz~1.5kHz】 芯、コシ

エレキギター同様、音色の芯やコシになる成分がある帯域。
「高域を派手にしたいわけではないが、なんだか音がはっきりしない」という場合はこのあたりをブーストしてやると抜けが良くなる。
ブーストすると3~4弦あたりの音が強調される。

【1.5kHz~6kHz】 歯切れ、ギラつき、ピックが弦とぶつかる音

1.5〜3kHzあたりにはブーストすると音の歯切れがよくなる「カリッ」っという成分、4〜6kHzくらいになるとピックが弦に当たる「ペチッ」っという成分がある。
2〜5kHzあたりを全体的に持ち上げるてやるとストラムのストローク感が活きてくる。
カッティング(ブラッシング)の歯切れを演出するのもこの帯域。
ブーストすると1~2弦あたりの音が強調される。

【8kHz~12kHz】 煌びやかさ 空気感

煌びやかさを演出する成分が含まれる帯域。
この帯域を持ち上げてやることでアコギ特有の煌びやかさを演出できる。
また、8kHzあたりにスチール弦特有のキラーンという成分がある。

っとこんな感じ。

具体例

では、上記のポイントを使った例をいくつか。

高域をブーストして煌びやかさと空気感をアップ

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
ハイパスは80Hzあたりに設定・・・してあるが、用途によって調整。
300Hzあたりをピーキングでカットして少しスッキリさせて、1kHz(1、2弦を強調)、3kHz(ギラツキ)、8kHz(煌びやかさ)をグイッとブースト。
また、12kHz以降をハイシェルフで持ち上げている。
・・・ちょっと大げさにブーストした(笑)
また、別にハイシェルフで2kHzくらいから高域全体を持ち上げてもいいと思う。

脇役に徹してもらう場合

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
脇役に徹してもらう場合の一例。
低域をベースに任せるためにハイパスを100Hzあたりに設定。
場合によっては120~150くらいまでカットしてもいいと思う。
250Hz、500Hzあたりを多めにカットしてスッキリと軽めの印象に。
また、派手さや出しゃばり感が出すぎないように3kHz付近を全体的にカット。

味のある優しめのアコギ

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
ハイパスは少し浅目の100Hzあたりに設定。
鳴りを強調させるために170Hzあたりを軽くブースト、700Hzと1.3kHzあたりをガツンとブーストして芯を強調して「カラン」とした印象に。
逆に落ち着いた印象を与えるために、3kHzと8kHzを多めにカット。
ちょっとモワンとしたなと思った場合は300~500Hzあたりを好みで適量カットしてやってもいいと思う。

ストラムの篭りを抑える

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
今回のサンプルはソフトウェア音源を使用しているのでもともと篭りが少ないが、実際にマイクでレコーディングした場合に、篭った感じが強い時にこの処理をしてやるといい。
ベースがいないという設定でハイパスは浅めの80Hzあたりに設定しているが、ベースがいる場合はもう少し上までカットしたほうがいいと思う。
篭りの原因になる300~500Hzピーキングでカットしてスッキリした印象に。
ソースによってはかなり大胆にカットしてもいいと思う。
最後に全体のバランスを見て、必要に応じて高域をブースト。
今回の例では3kHz(ストロークのキレ)、8kHz(煌びやかさ)をブーストしてあるが、8kHzあたりは好みによってはブーストしない方がしっくりくると思う(笑)

まとめ

今回はここまで。
流れとしては、

ウワモノとして使うのか、弾き語りや主役として使うのかによって低域の量を調整

高域の量を調整

必要に応じて他の成分(篭り等)を調整

といった感じがまとめやすいと思う。
次回は「ドラム」、「エレキベース」、「エレキギター」を重ねた時のEQポイントをご紹介。

ではでは。

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