超初心者のためのミキシング講座/イコライザー編③【ベースのEQポイント】

今回はベースのEQポイントをご紹介。
ベースはキック同様に楽曲の土台を担う重要なパート。
キックとの配置を考えながら安定した土台を構築できるように上手に処理してやりたい。
一方でギターやボーカルなどのウワモノと干渉する部分も多く、以外と扱いが面倒なパートでもある。

ベースのレコーディング

最初に少しだけベースのレコーディングの話を。
一般的にエレキベースのレコーディングをする場合は、アンプを通した音の他にDIを通した音(クリーンサウンド)を同時に録音する
アンプから出る音をレコーディングする場合、豊かな低域が得られる反面、音の輪郭を構成する成分が不足する傾向がある。
そこで、DI音を同時にレコーディングしておきミキシング時にDI音をアンプの音にブレンドしてやることで音の輪郭を構成する成分を補填してやるわけだ。
アンプから出る音はそれ単体で聴くと非常にかっこいいのだが、他のパートと同時に再生するとどうしてもぼやけてオケに埋もれがちになる。
単体で聴いたときは無くても問題ない成分がミキシングの時には補助的に必要になる場合があるということを覚えておきたい。

これからベースのEQのポイントを紹介していくわけだが、アンプを通した音のみの素材の場合、特定の周波数成分が全く含まれていないという場合もある。
EQはもともと存在しない成分をブーストすることはできないので、可能であれば別途DI音を用意しておいて必要に応じてブレンド出来るようにしておいたほうがいいと思う。

また、ソフト音源を使用する場合もDI音を収録した音源を使用することをオススメする。
その場合はアンプシミュレーターを掛けるトラックとは別に「DI音」のトラックを用意して適量をブレンドしてやることで同じことができる。

また、今回使用するTrilianや最近のアンプシミュレーターにはアンプ音とDI音をブレンドできる機能があらかじめ搭載されている。


WavesのGTR3。ベースアンプのみダイレクト音をブレンドできる仕様になっている。

もちろんこういった音源やプラグインを使う場合は1トラックで処理できる。
最近はこういった製品のほうが多いかもしれない。

ベースの周波数帯域別成分

では本題。
今回は、ご存知SPECTRASONICSの定番ベース音源「Trilian」を使って説明していこうと思う。

プリセットは「Rock P-Bass」。
TrilianのアンプシミュレーターをOFFにしてDI音のみを出力、IK MultimediaのAmplitubeの「Ampeg STV」を掛けてアンプでLowとHighを少しブーストさせてみた。
同時にDI音のトラックを用意して微量にブレンドしてある。
ルート弾き中心で申し訳ないがとりあえず1フレーズ用意してみた。
まずはキックの時と同様に周波数成分をアナライザーで見てみる。

キックと同じく低域に周波数成分が集中しているものの、それ以外にも音を構成する周波数の成分が存在しているのがわかる。

帯域別のEQポイント

帯域別に見ていくとおおよそ以下のような音で構成されてる。

20Hz~40Hz 音にならない圧力 「・ン・ン」

キックと同様、人間の耳が音として捉えにくい超低域と呼ばれる帯域。
音圧をかせぎたいときに邪魔になったりするのでハイパスでカットしてしまうのが一般的。

40Hz~160Hz 重量感 「ズンズン」

この帯域はキックと同様に重量感を司る帯域。
ブーストすれば重く、カットすれば軽いサウンドに仕上がっていく。
また、ベースをキックの上に配置する場合は、80Hzあたりから下はキックとの干渉を避けるために超低域と一緒にカットしてしまう場合も多い。
当然、重量感を担う帯域なので削りすぎるとパフンパフン軽いベースになってしまうのでキックとのカブリ具合を見ながら慎重にポイントを見極めたい。
これについては次回詳しく説明したいと思う。

200~600Hz 厚み、温かみ、篭り 「ボンボン」

40~160Hzと同様に量感を感じる部分だが上げ過ぎると篭った感じにもなる。
また、ギターやボーカルのオイシイ部分とカブる帯域でもあるので非常に扱いが難しい帯域。
キックとの兼ね合いを見ている段階ではあまり派手はEQ処理はしないで、ギターやボーカルと一緒に聴いたときにそれぞれがしっかりと聴こえるスポットを探してピーキングでカットしていくのがいいと思う。
もちろんキックとの住み分けもこの帯域で可能だが、もう少し上の帯域でベースのラインをはっきりさせたりオケに埋もれないようにするということも出来るということも覚えておいたほうが良い。
ベースをもっと目立たせたいという理由でこの帯域をブーストしても思ったほど目立たないし、キックとかぶるからという理由で過激にカットするとヘタレなベースになりかねない。

600~2kHz ライン 「ブリブリ」

この帯域にはベースのラインを際立たせる「ブリッ」っという成分が多い。
モコモコしててはっきりしない場合はここをちょこっとブーストしてやるとラインが見えてくると思う。
ただし、やり過ぎるとウワモノとぶつかるので注意。
逆にカットしていくとポワーンというやわらかいベースになる。

2~10kHz 指やピックが弦とぶつかる音 「カリカリ」

この帯域には、指が弦にこすれる音やビックと弦がぶつかる音が含まれている。
指とピックで潜んでいる場所が微妙に異なるので探してみてほしい。
適度に上げるとラインがはっきりしてベースがオケに埋もれなくなる。
また、この帯域を全体的に持ち上げていくとガリガリッとした固いベースに仕上げていくことが出来る。
スラップ(チョッパー)などでもここを上げるとかっこいい感じになる。
しかし、キックのアタックとぶつかる帯域でもあるので、キックのアタックとベースのアタックがぶつからないように上手に強調させたい。
さらに、強調しすぎるとギターやボーカルのオイシイ煌びやかさとぶつかるので注意。
ベースが主役ではないのならほどほどにしておいた方がいいだろう。

10~12kHz ギラつき、空気感 「ギャリギャリ」

空気感やギラつきを演出する成分が含まれる帯域だが、ウワモノと重ねた時のことを考えるとローパスでカットしてしまったほうが良かったりもする場所。
ウワモノや高域のパートとの干渉が大きい場合はカットしてしまってもいいと思う。

ま、例のごとく擬音は参考程度に(笑)。
低域部分についてはキックと同じような成分で構成されている。
中域、高域にかけてベースのラインやピックノイズなどの成分が含まれているので、この辺のバランスでベースの音色を補正していく。

具体例

では、上記のポイントを使った例をいくつか見てみようと思う。

ギラッと硬い音

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
ラインとアタックを強調するために900Hzと3kHz付近をブースト。
さらにガリつきを演出するために6〜7kHzあたりも派手にブースト。
逆に篭り気味になる300Hz付近を少しカットしてスッキリさせると同時に軽くになりすぎないように重量感を少しだけブースト。

太さを強調

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
125kHz付近をブーストして重量感を追加。

ラインを強調

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
900Hz辺りをブーストさせてラインを強調。
さらに3kHz辺りをブーストしてカリっとした成分を程よく配合。

角の立たない柔らかめの音

※4小節ごとにEQのON/OFFが切り替わります(最初はOFF)。
アタックを和らげるため3kHz付近と6〜7kHzを思い切ってカット。
代わりに900Hz付近をブーストさせてラインを多少ハッキリさせてみた。
また、篭りを和らげるために500Hz付近をカット。
・・・ま、このサンプルには合わないと思う(笑)。

まとめ

今回はここまで。
今回はポイントを説明するために全体的に派手にEQ処理を施しているが、ベースの音は他のパートをどう仕上げるかによって処理の仕方が大きく変わるので、単体でのEQ処理はガチガチに固めないで他のパートと混ぜた時に臨機応変に対応できるように各成分をバランスよく整えておくようなイメージで処理したほうがその後の処理が進めやすいと思う。
各帯域に含まれる成分を把握したうえで「アタックがキックと被らないように・・・」とか「ギターはこう仕上げたいからベースはこう・・・」といった感じでキックやギターなどとの兼ね合いを見ながら各成分を出したり引っ込めたりしていくとまとまりやすい。

ということで、次回は低域のまとめ。
キックとベースを重ねた時のEQポイントを紹介したいと思う。

ではでは。

Chanomaオススメのミキシングアイテム

Universal Audio APOLLO TWIN

Universal Audioは1176や610などの名機と呼ばれるアウトボードを生み出しているアメリカの老舗プロフェッショナルオーディオ機器ブランド。 Apollo Twin は同社のハイクオリティDSPプラグイン「UAD-2」が利用できるDSPチップを搭載したコンパクトオーディオインターフェース。 「往年のアナログ機器のサウンドをプラグインで再現」というコンセプトのもとに開発されるUAD-2は、NEVE 1073、610、APIやSSL、1176、LA-2A、Pultec EQなど数々の名機をプラグイン化しており、その技術は世界中で非常に高い評価を得ている。 プロの定番プラグインであるWavesを始め、様々なブランドが名機のエミュレートプラグインをリリースしているが、ビンテージ機材のエミュレーション技術においては間違いなくUniversal Audioが群を抜いている。 最近ではMarshallやFender、Ampegのアンプシミュレーターなどもリリースしており、ギタリストやベーシストにもオススメ。 手にしたその日からワンランク上のレコーディング、ミキシング環境が手に入る。

Waves Plugin

プラグインエフェクトと言えば「Waves」。 多くのプロも使用しているハイクオリティエフェクト。 ありきたりな選択肢だが、やはり良いものは良い。 余計な音質の変化はないし、余計な味つけもされないし、エフェクトのかかり具合も良く、使い勝手も良く、狙った効果がきちんと得られる。 CPU負荷も比較的軽めなうえ、動作も安定しているので安心して使用できる点もGood。 一昔前に比べてかなり安く手に入るようになってきているので、コスパ面でもオススメ出来る。 Silver、Gold、Platinumをはじめ多数のバンドルがラインナップされており、目的やレベルに応じて様々な選択肢をチョイスできるのも嬉しい。

audio-technica ATH-M70x

海外で人気のMシリーズのフラッグシップモデル。 決して周波数特性がフラットという機種ではないが、こいつの中高域の情報量は驚異的。 空間表現能力も驚異的でゴチャゴチャしている部分が丸見え。 他のヘッドホンで聴こえなかった音が面白いくらい見つかる。 くっついてしまったり、隠れてしまっている音もこいつなら一つ一つしっかりと確認できる。 但し、中高域が耳に張り付いてくるタイプなので、低域のモニタリングは慣れが必要? 「低域もある程度見える超高解像度版900ST」といった感じ。

YAMAHA MSP5 STUDIO

銘機「NS10M STUDIO」を開発したチームによるニアフィールドモニター「MSP STUDIO」シリーズの一番小さいサイズ。 フラットさに定評があり、モニタスピーカーとして各方面での評価も高い。 音質も非常にクリアで音像や定位もしっかりと捉えることができる。 とにかく飾り気のない素直な出音が特徴。 コスパはかなり高い。